横浜弁護士会新聞

2011年12月号  −2− 目次

会員研修会 古くて新しい永遠のテーマ ―境界問題の実務―
 10月3日、第一東京弁護士会所属の弁護士であり、駿河台大学法科大学院教授も務めている寳金敏明氏(※ほうきん)を講師に招き、「境界問題の実務」の研修が行われた。
 寳金氏は、長年、訟務検事として境界問題に携わり、各種著作も豊富な実力派講師である。
 境界問題を解決する際に「公法上の境界」と「私法上の境界」との区別が必須であるという点までは理解している会員も多いかと思われるが、今回の研修では「境界」の概念がさらに深く掘り下げられ、「公物管理界」等といった類似の概念についても詳細な解説がなされた。
 また、境界調査についても、主催者やその法律効果から様々な種類が存在し、法務局の担当者でも完全に理解していない場合もあることが説明された。
 随所に具体的事例を交えつつ、また各制度の歴史的背景にまで言及しながら進められる講義は、豊富な実務経験に裏付けられた説得力に富むものであった。
 特に各種標識が工事関係者等によって移動されることが多いという実態を踏まえ、「石はあるべき所にあってはじめて境界を示す」と述べて各種標識を軽信することのないように、との忠告には大きな衝撃を受けた。
 研修の最後には、東日本大震災による地殻変動が今後の実務に及ぼす影響等についても触れられた。今回の地殻変動では、最大5.3mの基準点の移動が確認されている地点もあるとのことで、この地殻変動に対し、従来の境界判定の実務では十分な対応ができない可能性があるという指摘もなされていた。
 境界問題が古くて新しい、我々会員がさらなる研鑽をする必要性のある問題であることを改めて認識させられた。
(会員 早川 和孝)

「横浜・パーソナル・サポート・サービス」研修について
 10月17日、当会貧困問題対策本部主催で「横浜・パーソナル・サポートサービス」(横浜PS)の研修会が実施され、約50名が参加した。この研修会は、まだ会員に馴染みが薄い、横浜PSについて、多くの会員に周知し、その活用方法を知ってもらうために企画された。
 横浜PSとは、簡単に言えば、メンタルヘルス・DV・就労・住居など様々な困難を抱えている方に対し個別的・継続的な自立支援を行っている団体である(内閣府の委託援助事業として昨年12月始動)。研修会では、まずこのPS事業の概略について説明がされた。
 その後、横浜PSの岩永牧人代表ら4名と、当会の沢井功雄会員から、各事業と弁護士とのあるべき連携について議論がなされた。横浜PSの講師4名は、いずれも野宿生活者・生活困窮者の生活支援、DV被害女性・母子への支援、一時保護施設の運営、若者の就労・自立支援など、各分野で活躍されており、横浜PSの誇る専門性がよく理解できる内容であった。
 その後の質疑では、多数会員から依頼者・事件関係者(虐待・刑事被告人など)について、具体的に横浜PSを活用できるのか質問が出され、この横浜PSが私たち弁護士にとっても、大変意義ある制度であることが実感された。
 始動したばかりの横浜PSの制度であるが、これを有効活用しつつ、我々弁護士も、横浜PSと連携し、多様な問題を抱える方の継続的・個別的な支援の一翼を担えればと思いを新たにした研修であった。
(会員 嶋 量)

消費者相談者対象研修
 当会法律相談センターの専門法律相談枠として、「消費者被害相談」がある。相談に訪れる市民の消費者問題のエキスパートたる弁護士への期待は大きい。この消費者被害相談を担当する弁護士を対象に、10月4日に2時間にわたり研修が行われた。
 講師は、消費者問題対策委員会前委員長で、現在神奈川大学法科大学院でも教鞭をふるっている鈴木義仁会員である。研修では消費者被害相談では欠かせない「消費者契約法」についての講義が行われた。鈴木会員から、最新の判例をふまえたケーススタディ的な講義を中心に、消費者契約法の条文の説明がなされた。事例研究からのアプローチは受講者からも、わかりやすいと大評判だった。
 研修後に参加者から回収したアンケートによると、相談担当者自身、次々と新しい消費者被害が生まれてくることへの対応に不安を感じているとの回答が多かった。そのような中で、この分野での研鑽の必要性を強く感じていることがうかがわれた。
 各自研鑽を積まれていることとは思うが、このような研修の機会をさらに設けていく必要性を実感した。
(会員 芳野 直子)

死刑廃止 社会的議論を呼びかけ 第54回人権大会開催
 今年の人権大会は、10月6〜7日、高松市において開催された。54回目となる今年は約1100人の会員が参加したそうである。
 人権大会の初日は3つの分科会にわかれてシンポジウムが開催された。第1分科会は「私たちは『犯罪』とどう向きあうべきか?」を、第2分科会は、「今こそ『希望社会』へ」を、第3分科会は「患者の権利法の制定を求めて」を、各テーマに掲げ、基調講演やパネルディスカッション等を交え、真剣な議論が交わされた。
 二日目の人権大会では、前日のシンポジウムでの議論を受け、「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」をすることの採択がなされたほか、「希望社会の実現のため、社会保障のグランドデザイン策定を求める決議」「患者の権利に関する法律の制定を求める決議」「障害者自立支援法を確実に廃止し、障がいのある当事者の意見を最大限尊重し、その権利を保障する総合的な福祉法の制定を求める決議」の3つの決議が採択されることとなった。
 上記死刑廃止に関連する宣言の採択にあたっては、前日の分科会での議論同様に、強制加入団体である弁護士会において、死刑廃止に関する会内的合意形成が不十分であるとの反対意見も出たものの、国際的な死刑廃止への流れなどを踏まえた賛成意見が相次ぎ、かかる宣言をすることが可決された。
 人権大会は、毎年、色々な地方で開催されることもあってややイベントと化している部分も否定できないが、開催にあたって準備をする会員やシンポジウムの内容に興味をもって参加する会員が多いこともまた事実である。どのような動機であれ、今後も多くの会員が参加することを期待したい。
(会員 澤田 久代)

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