債権法改正に向けた法制審議会民法(債権関係)部会(以下「法制審部会」)の審議は、今年3月で一巡目(第1読会)を終え、4月に「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」が取りまとめられた。 |
そこで取り上げられた論点は優に500を超えている。そして、これについて、6月から約2か月間、パブリックコメントの募集が行われ、当会も、関連委員会の意見を鋭意集約して、332頁に及ぶ意見書を作成し、法務省に提出している(近日中に当会のホームページに掲載予定)。 |
もっとも、これはせいぜい折り返し地点に過ぎず、7月下旬から早くも法制審部会での審議が再開されている。この第2読会では、前記論点を中心に、改正の要否や方向性などにつき法務省より一定の具体案(複数案が併記されている場合も多い)が示され、その当否をめぐってさらに突っ込んだ議論が展開されており、これまで沈黙を続けていた裁判官出身の委員も積極的に発言をするようになるなど、改正をめぐる議論はまさにヤマ場を迎えている感がある。 |
9月12日、当会にて、神奈川県内のロースクールの研究者による債権法改正に関する講演会の第2弾として、最重要論点の一つである瑕疵担保責任をテーマに、今年9月まで1年間当会の会員であった横浜国立大学法科大学院の渡邉拓准教授による講演会が開催された。 |
約2時間の講演においては、まず、瑕疵担保責任の法的性質論について、近時は法定責任説よりも契約責任説が通説的地位を占めており、学者グループによる改正提案も契約責任説に立ったものであることや、法制審部会の第1読会でも、特定物ドグマを否定し、契約責任説を支持する意見が多数であったことなどが紹介された。最近の立法例でもウィーン動産売買条約などが契約責任構成をとっているとのことで、これは近時の国際的潮流でもあるようである。 |
次に、瑕疵担保責任に関する重要判例である最判平成22年6月1日について批判的検討が加えられ、さらに、契約責任説に沿った改正がなされた場合の実務への影響にも話は及んだ。そこでの、「瑕疵担保責任の存在意義は想定外のことが出てきたときに買主を保護する点にあるが、仮に契約責任説に沿った改正により、損害賠償請求につき履行利益の賠償まで可能となる代わりに過失が要求されることになると、実務で普及している法定責任説的考えのある種の使い勝手の良さが失われるのではないか」との指摘には、大いに頷けるものがあった。 |
この講演を通じて、瑕疵担保責任の法的性質に関する理論的な検討のみから演繹的に要件効果を導き出すという方法で改正を進めることで実務的にも妥当な結論が得られるとは限らず、具体的な紛争の解決にとって現行法のどこに不都合があるのか、あるいは、紛争解決のために買主にどのような救済手段を認めるべきかといった観点からの検討が不可欠であるということを再認識させられた。 |
講演の最後には、渡邉准教授から1年間弁護士実務を経験してみての感想や失敗談(?)も飛び出すなど、理論と実務の両方を見据えた示唆に富む内容の充実した講演であった。 |
(司法制度委員会副委員長 林 薫男) |