横浜弁護士会新聞

2010年7月号  −2− 目次

私の事件ファイル(14) おかしくありませんか
会員 花村 聡
 土地をあげたのに、贈与税の請求が来た。こんなことあるの? 相談を受けた。
事案内容の要旨(脚色あり)
 甲は乙に昭和45年に時価5000万円の土地(以下、本件土地という)を贈与した。贈与契約書は甲乙間で作成されたらしいが現存しない。乙は贈与を受ける前から本件土地を使っていたし、登記制度も知らなかったので移転登記をせずして余生を全うした。甲は後を追うように天に召された。四半世紀の時が流れた。
2   乙の相続人丙は、乙が甲から本件土地の贈与を受けたものと聞いていたので、甲の相続人に対して本件土地は自己の所有であると主張し、登記を移転するように求めた。本件土地は時価3億円になっていた。は弁護士に依頼した。丙も弁護士に依頼した。双方の弁護士が調査したところ、昭和45年頃に甲が乙に本件土地を贈与したとの心証を得た。そこで甲が乙に昭和45年頃に本件土地を贈与したこと、乙の相続人である丙が本件土地の所有権を有することを確認し、解決金として金500万円を丙はに支払うとの合意をした。丙はこの合意に基づき贈与に因る移転登記手続をした。丙は何故か贈与税の申告をした。丙は本件土地を売却したが、借金の額が予想以上に多く、贈与税の一部を支払ったのみで残額を支払うことが出来なかった。
 F税務署は贈与税を支払うように求めた。
訴訟の経過
 依頼を受けた当事務所は黒木弁護士を主任として、税務債務不存在確認請求事件を東京地裁に提起。第1回弁論、被告席には何と6人も座っていた。F市からの交通費出張費は誰が支払うんだろう?
2   我々は(1)贈与契約は昭和45年になされたものであるから消滅時効で徴収権は消滅した(2)贈与者に贈与税を課す相続税法34条4項は憲法29条及び84条に違反して無効だと主張した。

 一審 勝訴、徴収権は時効で消滅したと認定、相続税法34条4項が合憲か否か判断するまでもない。国控訴。
 二審 昭和45年に贈与がなされたとは認められない。平成11年になされた合意は負担付贈与であり徴収権は時効消滅していない。相続税法34条4項は憲法29条及び84条に違反しないとして原判決取消。
   上告、上告受理申立。しかし最高裁は、上告棄却、不受理との決定。
おかしくありませんか
 何故最高裁は憲法判断をしなかったのか。日弁連も日税連も相続税法34条4項については立法的に廃止すべきとの意見書等を提出しているし、学者の中にも相続税法34条4項は違憲の疑いがあるとの主張がある。特に何らの利得を得ていない贈与者に贈与税を課すなんておかしいし、最高裁は憲法判断をすべきであった。
 皆さん、おかしいと思いませんか。それともおかしいと思う私がおかしいのでしょうか(判タ1265号183頁)。
 おかしいことが世の中にあるから人生面白いと達観している今日この頃である。

4会員に激励と慰労 6・8 ホテルニューグランド
 6月8日、ホテルニューグランド、ペリー来航の間にて「高橋理一郎会員日本弁護士連合会副会長・清水規廣会員日本司法支援センター神奈川地方事務所所長就任激励と須須木永一会員日本司法支援センター神奈川地方事務所所長退任・大木孝会員司法研修所教官退任慰労の集い」が開催された。
 開会の挨拶に先立ち、水地会長が前野義広会員の訃報を報告し、出席者全員で黙祷し哀悼の意を表した。
 同会長の主賓紹介後、主賓の4会員から順に就任又は退任の挨拶があった。
 高橋会員は、前半の山場である定時総会が滞りなく終了し安堵していること、日弁連が抱える課題の一つに若手弁護士の就職・開業の支援があるが、就職先の開拓も含めた弁護士業務の活動領域の拡大を模索することが自己の役割と考え、若手弁護士が将来に希望を持てるよう尽力したいと抱負を述べた。
 清水会員は、法テラスは基礎となるレールを敷設する草創期から次の段階に移り、業務への楽しさを感じるとともに基礎を築いた先の所長らの偉大さを感じる日々であること、会員には扶助業務の引受けと市民の目線に立った法的サービスの提供をして欲しいと述べた。
 須須木会員は、平成19年4月から法テラス神奈川の所長を務めた3年の間に扶助事件件数が毎年1.5倍増したことで、会員や当会の尽力に謝意を表すとともに、今後も温かい気持ちで法テラスを育てて欲しいと述べ、その役割を果たしてくれるのが新所長であると清水会員へエールを送った。
 大木会員は、3年間の任期を無事終え、物心両面での当会の支援に謝意を表した。3年間の研修所教官の生活は「運と縁と恩」であったという。今後も、修習委員会に入会するなど修習生のサポートに関わっていきたいと述べた。

法テラス神奈川 清水規廣新所長に聞く
 清水規廣会員(28期)が、4月12日、日本司法支援センター(法テラス)神奈川地方事務所所長に就任した。「草創期」を過ぎたと言われる法テラスは、今後どこへ向かうのか。清水新所長に、直面する課題や抱負を聞いた。
―所長ご就任、おめでとうございます。ご就任以来、見えてきた課題がありますか。
 法テラスは、今年、業務開始から4年目になります。既に「草創期」は過ぎたと言われており、多くの課題が見えてきました。職員のスキルは向上していますが、業務分野が拡大し、事務量も増えています。事務の効率化を図りながら、サービスの向上を目指していかなければならないと思っています。
―今後の法テラスのあり方について、お考えをお聞かせいただけますか。
 弁護士個々のボランティア精神に頼る制度では、長続きはしません。弁護士の努力がきちんと報われるような仕組みを整えていくことが、制度を定着させていくために、とても大事だと思います。ただ、そのためには、市民、国民の支持が不可欠です。市民の要請に応えられるよう、弁護士の側も、常に努力していく必要があると考えています。
―具体的に、当会の会員に望まれることがあれば、お願いします。
 民事法律扶助業務の件数は年々増加しており、国選弁護人の登録数もまだまだ充分とはいえません。多くの会員、特に若手の方に、法テラスと契約をしていただきますよう、お願いします。
(聞き手・工藤 昇)

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