横浜弁護士会新聞

2009年11月号  −1− 目次 

「質」と「量」の確保を〜裁判員裁判始まる〜
 裁判員裁判が施行されてから早くも半年が経過しようとしているが、県下においては、9月29日から10月1日に第1号となる事件(起訴罪名:殺人)の公判が、10月5日から8日に第2号となる事件(起訴罪名:現住建造物等放火)の公判がそれぞれ開かれ、判決に至った。

 第1号事件については、高原将光会員、川島明子会員が当会の先駆者として活躍し、第2号事件については、安藤肇会員、菊池博愛会員が活躍した。第2号事件は、全国で初めての「認定落ち」となり、建造物等以外放火罪として、検察官の懲役4年の求刑に対し、懲役3年執行猶予5年(保護観察付)の判決を得て、新聞等にも広く報道されたところである。いずれの弁護人も、原稿を読まない、適宜パワーポイントを利用して図示するなど、裁判員に理解させ、裁判員を説得するための努力を最大限実行していた。その努力が、結果として結実したものである。
 裁判員裁判に対する当会の課題は、言うまでもなく、弁護人の「質」と「量」の確保にある。弁護人が、従前と変わりのない書面に偏った弁護活動をすれば、6名を占める裁判員を議論から置き去りにし、被告人のための主張を伝えきれないおそれがある。また、いかに会員数が増えようとも、一部の有志に頼るのでは、現実問題として、年間120件とも想定される県下の裁判員裁判を支えきることは不可能である。とかく制度論を言われることも多いが、現に被疑者・被告人がいる以上、県下の刑事弁護を崩壊させることは許されない。我々ひとりひとりが、会全体の問題として、刑事弁護を支える意識を持ち、実行していくことが肝要と考える。
 裁判員制度運用委員会は、今後も、会員により良い弁護活動をしてもらうため、裁判所への制度改善の提言、会員に対する有益な情報提供、技能向上のための研修等を行う予定である。情報提供の一環として、本年4月から、「裁判員裁判ニュース」として、毎月1回FAXにより、裁判員裁判に関する情報提供を行っている。また、制度改善のための情報収集として、弁護人になった会員に対し、活動内容に関するアンケートと判決書等の提供を依頼して収集し、日弁連裁判員本部に提供している。また、11月28日、29日には、日弁連裁判員本部の講師が、当会会館において、ビデオ撮影なども活用して弁論の方法等を検証し合う実演型研修を実施する予定である。
 県下の裁判員裁判を支えるべく、今後ともご協力をお願いします。
(裁判員制度運用委員会副委員長 伊東 克宏)

第52回人権擁護大会プレシンポジウム─人と森をつなぐ─温暖化を防止し生命を育む森林の未来のために
 9月6日、当会会館において日弁連と当会の共催により標記催しが行われた。11月5日和歌山で開催される日弁連人権擁護大会シンポジウム第2分科会「ストップ地球温暖化」のプレシンポと位置づけられたものである。
 地球温暖化による深刻な影響を回避するため、温室効果ガスの排出削減への取組が国際的に喫緊に求められているところ、森林の保全及び整備は、森林吸収源としても水土の保全のためにも、重要な意味を持つ。また生物多様性保全の観点からも、荒廃した森林の再生が求められている。
 本シンポではまず、この問題の第一線の研究者である小林紀之教授(日本大学法科大学院)が、京都議定書による森林吸収源対策や世界及び国内での様々な新しい試みについての基調講演を行った。次いで飯田洋弁護士(岐阜県弁護士会)が、各地で積み重ねた調査の映像とともに、森林の価値や現状を幅広く説明した。
 第2部では、小林教授のほかに、国際環境NGO FoE Japanの一員として熱帯雨林の違法伐採問題等に取り組む江原誠氏と、神奈川県自然環境保全センター研究員として丹沢における森林荒廃問題等に取り組んできた山根正伸氏をパネリストに迎え、筆者がコーディネーターを務めディスカッションを行った。
 その中で浮き彫りになってきたのは、各国の利益が複雑に絡む国際交渉の中で、地球的利益のために人知の結集が必要なこと、そして我々市民も、熱帯林伐採や国内森林の荒廃などを身近な問題として感じなければならないことである。たとえば、安売りの机がどこの国で伐採された木からできているのか、毎日飲んでいる水はどこの森をとおってきたものなのか、そのようなところから関心を持ち、自分と森とを、そしてさらに地球とを結びつけていかねばならない。
 休日にかかわらず約50名の熱心な参加者を得て、有意義な集まりとなり、秋のシンポに向けてのよい弾みにもなった。
(会員 畑中 隆爾)

山ゆり
「いくさは何分の一秒で走りすぎる機微をとらえて、こっちへ引きよせる仕事だ。それはどうも智恵ではなく気合だ」
小説「坂の上の雲」における203高地を陥とした陸軍大将児玉源太郎の言葉だ
精神論は古くさいものと否定されがちであるが、何事においても力を発揮するためには精神が充実していなければならないと最近つとに思う。何をするにせよ、気持ちが入ってないときはろくな結果にならない
戦と比較することは適切でないであろうが、紛争を扱うという意味では、弁護士業務も例外ではない。得てして知恵で解決すべき業務と思い、思われがちであるが、どちらにも立場なりの理があることは往々にしてあり、最後に勝敗を分けるのは、あるいは気合なのかもしれない
4面に記載のとおり横浜弁護士会野球部マリナーズが日弁連野球全国大会への出場を決めた。新潟との試合は一瞬の機微を捉えた横浜に軍配が上がった。まさに気合の差であったホットココア
全国大会初戦の相手は大会十連覇中の東京弁護士会チームとなった。既にこの号が出る頃には結果が出ているが、気合を充実させ一瞬の機微を逃さなかったであろうか
結果は次号をお楽しみに。
(池本 康次)

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