先日、フランツ・カフカの短編『新しい弁護士』を読んだ。アレキサンドロス大王の軍馬だったブケファロスが、現代に弁護士として―何と馬のまま―甦るという奇想天外な内容である。非常に短いが、示唆に富んだ散文である。 |
裁判員法が5月21日から施行された。裁判員制度の陰にやや隠れている感があるものの、改正検察審査会法も同日より施行されている。 |
6月26日、同法に起因するニュースが全国を駆け巡った。二階俊博経済産業相(当時)側への西松建設献金問題で、元社長の国沢幹雄被告に対して東京地検が当初の起訴猶予処分を一転させ、起訴に踏み切ったのである。検察審査会の「起訴相当」との議決を受けた異例の判断であった。 |
検察幹部は「民意を反映する検察審査会が求めるならば、起訴するということだ」と述べた。果たして、これは「新しい検察官」の端緒なのであろうか。 |
9月29日には横浜で初の裁判員裁判が開かれる。裁判官は多様な価値観を持つ裁判員に刺激され、やがて「新しい裁判官」になる。そして新しい司法制度の下、「新しい弁護士」も誕生するのであろう。 |
カフカは悲観的である。「方向を指し示すものは誰もいない。剣を帯びた者は多いが、ただ振り回すだけである。故に剣に従う者は、目を回すばかりである」と。 |
しかし、私たちは過度に恐れる必要はあるまい。私たちの「新しい弁護士」は元より軍馬ではなかったのだから。願わくば、「古い弁護士」の時代が尊ばれんことを。 |
(時事通信社・遠藤 達也) |