昨年2月に司法担当に赴任して、早くも1年が過ぎた。あらためて取材ノートをめくると、色々な事件が脳裏によみがえる。イージス艦情報漏えい事件に米兵のタクシー運転手強盗殺人事件、横浜事件の再審開始決定。大事件の裁判が紙面を飾る一方、記事にならない裁判も多い。傷害や窃盗、器物損壊事件など。社会性の有無からボツになった原稿の中に、今でも忘れられない裁判がある。 |
昨年5月に行われた放火未遂の公判。勤務先を解雇されたことなどから家族と口論になり、自宅廊下に火をつけた被告男性は逮捕後に離婚した上、医師からは病気で余命1年と宣告されていた。 |
懲役2年6月、執行猶予3年の判決を受けながらも、病院に入院を断られ、身を寄せる親族もなく途方に暮れる男性。閉廷後、弁護士に今後どうするのか尋ねると「このままほうり出すわけにもいかない。レンタカーで簡易宿泊所に連れて行き、何か食べ物を差し入れますよ」との答えが返ってきたのに、驚きと感動を覚えた。 |
検事にこの話をすると「そんなのだめだよ。踏み込みすぎだよ」と一笑に付された。確かにその通りだろう。弁護士としての行為を逸脱した特殊なケースなのかもしれないが、それでも、あの時の弁護士の言葉は今でも私の心に残っている。 |
法廷内での出来事にとどまらず、法廷外でのさまざまなエピソードも読者に届けられればと思っている。 |
(神奈川新聞 石尾 正大) |