横浜弁護士会新聞

2008年9月号  −2− 目次

私の事件ファイル(12) 思わざる体験。更生管財人
会員 岡 昭吉
 処理に慣れた事件の縁で、思わぬ仕事を体験した。1993年3月のこと。横浜地方裁判所から、川崎市内に本社のある中小企業の更生管財人(以下、管財人)に選任された。
 当時私の知る限り、当会会員で管財人経験者は、事案の終結、継続中を含めて3名に過ぎず、全員会長歴を有した。役者が違う。同社の更生を申立てた上村恵史弁護士は、その1か月ほど前に次の説明をした。主要発注者である富士通から管財人を出して貰うのが最適。だめなら、現保全管理人の弁護士の横滑りで良い。双方無理の時は、君に引受けて貰いたい。この会社の労組との対応に経験を活かしてくれ。経営はなんとかなるだろうとの由。管財人職務を全く知らず、前記両名のどちらかの承諾を期待した私は「はい」と答えた。
 約1か月後に上村弁護士に呼出され「管財人適任者は君しかいない」と言われてあわてた。出身事務所の大先輩であり、管財人経験者でもある森英雄弁護士の事務所を訪れて、就任の是非を問うた時の答え。「管財人は、弁護士としての生きがいがある男の仕事です」と乗せられ、身の引締まる思いがした。
 その後、裁判官の面接を経て選任に至り、新たな世界に目ざめた。
 管財人は更生会社の事業運営、財産管理権を一手に握る。手始めは人員整理と売却目的の川崎工場閉鎖だ。
 労組との交渉は概ね私一人でやり、「旧経営陣を連れて来い」「管理職をなぜ同行しないか」の合唱で始まる。私が一言述べると、「富士通に押し掛けるぞ」「みずほ銀行に行っても良いか」とこだまが返った。1か月程で解決した夜、「やめる俺達の先は闇だが、残る者も闇だ」と言われたのが心に残る。
 管財人就任約2年後の関係人集会で、更生計画案が可決、即日認可決定を受けた。資本の100%を減資し、一定額を増資、一般更生債権のカット率は債務免除益に対する課税の懸念から約3割にとどめ、返済期間14年とした。
 更生手続中に更生債権者数社が倒産し、破産手続終結のために債権放棄をしたのは気の毒であった。従業員の賃上げや賞与支給その他に裁判所の許可を要したが、すぐに慣れた。
 更生計画認可決定後、裁判所の許可を得て取締役、監査役と代表取締役を選任した。
 彼らの報酬確保のため私の報酬月額を自主的に3分の2に減額した。
 その後更生計画上の債務残額を2004年3月に繰上げ完済して、同年6月更生手続終結決定を頂く。しかし会社は急激な受注減少により、その前年12月に、都留工場や秋田県所在の子会社ともども、私が全事業所を回って直接全従業員を解雇し、その後子会社ともに解散した。
 更生会社が立ち直った原動力は、元営業部長から管財人室長、その後社長に発令した誠実な女性の存在である。主要発注者の富士通職員の厚い信頼も受けていた。
 雪の長野工場、新緑の沼津工場、あるいは紅葉の館林工場へと、ともに受注活動に回った日々がなつかしい。管財人として、社員や顧客との関係はもちろん、労組との対応の基本も、人間性の尊重を旨とした。

1年9か月を振り返って むつひまわり基金法律事務所
 横浜弁護士会の皆様、こんにちは。私は平成17年10月に横浜弁護士会で弁護士登録し(58期)、平成18年12月に青森県むつ市の「むつひまわり基金法律事務所」に3年の任期で赴任するために青森県弁護士会に登録替えをしました。
 むつ市の人口は現在6万6千人程度、マグロで有名な大間町などの周辺の町村も合わせると、むつ簡易裁判所の管内人口は8万人以上にもなります。その管内にある法律事務所は、現在のところ、当事務所だけです。
 そのため、赴任してから、1年9か月ほどが経ちましたが、現在でも相談の件数は減ることが無く、日々忙しく仕事に追われる毎日を過ごしています。ちなみに、去年1年間の相談件数は約350件、受任した事件数は約200件でした。
 ただ、忙しくなるであろう事は、他の公設事務所の状況などからある程度予想できていたことであり、むしろ日々困っている人たちの役に立てる仕事を続けられていると思って、ある種の充実感をもって弁護士活動を続けています。
 なお、このように事件数は多いので、公設事務所では収入が年720万円以下になると補助を受けられる制度があるのですが、現在のところ、その制度のお世話になる必要はない状態です。
 赴任前は、北国で気候的にとても寒いだろうなぁ、とある種の覚悟を決めていたのですが、赴任してからの2回の冬はいずれも暖冬で、ごく普通に日常生活を送っています(ただ、1度だけ雪道で車をスピンさせて自走不能な状態になる自損事故を起こしてしまいましたが)。
 さて、私がなぜ公設事務所に赴任したかと言いますと、修習期間中にひまわり基金制度のことを知り、困っている人の役に立てる弁護士になりたいという、自分の希望に沿った弁護士活動ができるのではないかと思ったからなのです。実際に赴任してみると、企業・法人の相談もたまにありますが、やはり個人の相談が中心であり、自分が頼られているという実感を持つことが出来ます。
 このような充実感は司法過疎地域で弁護士活動をすることの一つの醍醐味だと思います。公設事務所は任期制ですので、一定期間だけ司法過疎地域での活動に身を投じるということも可能ですから、横浜弁護士会の先生方も、是非、公設事務所への赴任を検討してみて下さい。個人的には法テラスのスタッフ弁護士よりも裁量の幅・自由度が高くて、公設事務所の方が楽しいと思うのですが(スタッフ弁護士の先生、すみません)、なぜか最近の修習生の間ではスタッフ弁護士の方が人気のようなので・・・。
 などと、最後が何やら公設事務所への勧誘のようになってしまったのは、実は、もうすぐ私の後任の先生の募集が始まる予定だったりするからなのですが、もし無事に事務所を引き継げた場合には横浜弁護士会に復帰する予定ですので、その際には皆様よろしくお願いいたします。
(青森県弁護士会会員 中山 雅博)

関弁連プレシンポ 充実した意見交換なされる
 7月12日、関弁連プレシンポジウムとして「弁護士過疎偏在解消と法科大学院の役割」をテーマに、第一部教員交流会・第二部法科大学院生も参加の集いが当会会館にて開催された。9月26日に当会で開催される関弁連シンポジウムのプレ企画である。
 第一部に15法科大学院の教員32名が参加、弁護士過疎偏在問題を講義として実施しているか等、現状と今後のあり方につき充実した意見交換がなされた。
 第二部は教員31名、大学院生56名、弁護士31名外、合計126名が参加。基調報告として、法科大学院と院生アンケート結果の紹介がなされ、関弁連管内36校中32校が回答し、院生回答1353人のうち510名が過疎偏在地で活動してみたいとの回答を寄せるなど、関心は高いにも関わらず、過疎偏在問題に関する講義等を実施しているのは10校のみであった。
 日弁連作成DVD「いま、弁護士は」の上映後、前・丹波ひまわり基金法律事務所長の井村華子弁護士の情熱溢れる基調講演とパネルディスカッションが行なわれ、過疎偏在地に赴任する弁護士の経済的・技術的支援の必要性とその対策につき議論がなされた。本シンポにおいては更に議論を深めたい。
(会員 竹森 裕子)

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