9月はロースクールの教員にとって憂鬱な季節である。皆さんがこの新聞を読んでいるころの13日に、第2回新司法試験の合格発表があるからだ。 |
私が平成16年4月から実務家専任教員をしている横浜国大ロースクールの昨年の第1回新司法試験受験者は10名。合格者が5名で全国平均の合格率に達し、大学として何とか面目を保つことができた。ロースクールの基本形であり3年かけて卒業する法学未修者が初めて受験した今年の新司法試験では、受験者38名のうち短答式合格者が26名と苦戦したため、全国平均の合格率(予想で約40%)に達するのは厳しい状況にある。新司法試験を受験した学生はもとより、在校生、教員、法曹志望者など、ロースクールに関係するあらゆる者が13日の結果に注目している。この結果によって、新司法試験に合格する大学と合格しない大学が区別され、廃止や瀕死(学生が教員を全く信用しないため、教育が事実上できない大学をいう)の状況に直面するロースクールが出てくるからである。
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平成13年の司法改革審議会意見書は、ロースクールにおける教育と新司法試験との関係について、「『点』のみによる選抜ではなく、『プロセス』としての法曹制度を新たに整備するという趣旨からすれば、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みとすることが肝要である。……その過程を終了した者のうち相当程度(例えば約7〜8割)の者が後述する司法試験制度に合格できるよう、充実した教育を行うべきである」と述べている。ところが、このような仕組みをつくらず、新司法試験の合格率が5割を切る現状では、学生のみならず、教員を含めたロースクール関係者の関心が、ロースクール創設の理念に添った教育の実践ではなく、新司法試験の合格率向上に向いてしまうのは当然であろう。その典型が某大学の司法試験委員による新司法試験問題の漏洩疑惑である。 |
私が25年前に留学したカリフォルニア大学バークレー校ロースクールでは、5月末にロースクールを卒業すると、学生は7月末の司法試験までの2か月間、大学キャンパス内で行われる著名な司法試験予備校(Barbri)の授業に出席して司法試験の受験勉強に専念した。現在もこの状況はかわらないようで、司法試験のためにロースクールの教育が歪められたという話は、少なくとも全米の有力ロースクールでは聞いたことがない。 |
今のロースクールは、学生も教員も、「教育を優先するか」、「司法試験を優先するか」で心が大きく揺れ動いている。暫く前に世間を騒がせた耐震偽装マンションの住民と同様、学生も教員も、司法改革審が描いた当初の設計図どおりに設置されなかった歪んだロースクール制度の犠牲者といえよう。 |
弁護士業務を大いに犠牲にして後進養成のためロースクール教員の道を選んだのであるから、ロースクール創設の理念である「創造的思考力をもった法曹」を育成するための教育に専念したいが、新司法試験合格率の誘惑からロースクールの教育を守るための有効な方策が見つからない。 |
(会員 川島 清嘉) |
司法改革の目玉として平成16年4月に法科大学院が開設され、既に3年が経過した。今春、法学未修者を初めて卒業させ、カリキュラムの全課程を一巡させたことになる。法科大学院とは何か、法科大学院で何が起こっているのか、見つめ直す時期にきている。本号から4回連続で、県下法科大学院の教壇に立つ本会会員が、教育の現場をレポートする。 |