横浜弁護士会新聞

2007年9月号  −3− 目次

法科大学院からの報告(1)教育と司法試験どちらを優先する? 横浜国立大学編
 9月はロースクールの教員にとって憂鬱な季節である。皆さんがこの新聞を読んでいるころの13日に、第2回新司法試験の合格発表があるからだ。
 私が平成16年4月から実務家専任教員をしている横浜国大ロースクールの昨年の第1回新司法試験受験者は10名。合格者が5名で全国平均の合格率に達し、大学として何とか面目を保つことができた。ロースクールの基本形であり3年かけて卒業する法学未修者が初めて受験した今年の新司法試験では、受験者38名のうち短答式合格者が26名と苦戦したため、全国平均の合格率(予想で約40%)に達するのは厳しい状況にある。新司法試験を受験した学生はもとより、在校生、教員、法曹志望者など、ロースクールに関係するあらゆる者が13日の結果に注目している。この結果によって、新司法試験に合格する大学と合格しない大学が区別され、廃止や瀕死(学生が教員を全く信用しないため、教育が事実上できない大学をいう)の状況に直面するロースクールが出てくるからである。
 平成13年の司法改革審議会意見書は、ロースクールにおける教育と新司法試験との関係について、「『点』のみによる選抜ではなく、『プロセス』としての法曹制度を新たに整備するという趣旨からすれば、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みとすることが肝要である。……その過程を終了した者のうち相当程度(例えば約7〜8割)の者が後述する司法試験制度に合格できるよう、充実した教育を行うべきである」と述べている。ところが、このような仕組みをつくらず、新司法試験の合格率が5割を切る現状では、学生のみならず、教員を含めたロースクール関係者の関心が、ロースクール創設の理念に添った教育の実践ではなく、新司法試験の合格率向上に向いてしまうのは当然であろう。その典型が某大学の司法試験委員による新司法試験問題の漏洩疑惑である。
 私が25年前に留学したカリフォルニア大学バークレー校ロースクールでは、5月末にロースクールを卒業すると、学生は7月末の司法試験までの2か月間、大学キャンパス内で行われる著名な司法試験予備校(Barbri)の授業に出席して司法試験の受験勉強に専念した。現在もこの状況はかわらないようで、司法試験のためにロースクールの教育が歪められたという話は、少なくとも全米の有力ロースクールでは聞いたことがない。
 今のロースクールは、学生も教員も、「教育を優先するか」、「司法試験を優先するか」で心が大きく揺れ動いている。暫く前に世間を騒がせた耐震偽装マンションの住民と同様、学生も教員も、司法改革審が描いた当初の設計図どおりに設置されなかった歪んだロースクール制度の犠牲者といえよう。
 弁護士業務を大いに犠牲にして後進養成のためロースクール教員の道を選んだのであるから、ロースクール創設の理念である「創造的思考力をもった法曹」を育成するための教育に専念したいが、新司法試験合格率の誘惑からロースクールの教育を守るための有効な方策が見つからない。
(会員 川島 清嘉)
 司法改革の目玉として平成16年4月に法科大学院が開設され、既に3年が経過した。今春、法学未修者を初めて卒業させ、カリキュラムの全課程を一巡させたことになる。法科大学院とは何か、法科大学院で何が起こっているのか、見つめ直す時期にきている。本号から4回連続で、県下法科大学院の教壇に立つ本会会員が、教育の現場をレポートする。

フリージャーナリスト斎藤貴男さんが熱弁「激動の還暦憲法」講演会
 「いまこそ、憲法の精神を現実に生かすべきとき」。5月29日、関内ホール(小ホール)に集まった250人の聴衆に対し、フリー・ジャーナリスト斎藤貴男さんが、歯切れのよいことばに思いを込めて語りかけた。
 格差社会が広がれば、徴兵をしなくても貧しい若者が兵士を志願する、アメリカがそうである。アメリカ軍と自衛隊の再編で、戦争への日米同盟一体化が進んでいる。集団的自衛権までも認めてしまおうという戦時体制づくりの総仕上げとして、9条改憲論が打ち出されている、という。
 ときあたかも、憲法改正国民投票法が成立した直後であった。同法をめぐる国会の状況や今後の課題は、日弁連憲法委員会の猿田佐世弁護士から報告された。
 この集会は、当会主催で、憲法施行60年を記念して企画され、日弁連の人権大会第1シンポ(監視社会問題)のプレシンポとも位置づけられた。前の週、関内駅前の朝ビラ宣伝行動には、雨の中を、理事者2名を含む13名の会員が駆けつけたが、そんな努力が実を結んだ、熱気ある集会となった。
 冒頭の山本会長あいさつでも最後のアピール採択でも、憲法の立憲主義・平和主義の大切さが訴えられたが、問題はこれから。憲法の激動はすなわち、日本全体とそこでの人権状況の激動を意味しよう。いま、これから、弁護士は? そして弁護士会は?………
(会員 福田 護)

こちら記者クラブ 心の闇に安易な答え
 「被害者や裁判所を裏切ったことは分かりますか」。裁判官の声が法廷に響いた。未成年者誘拐罪で執行猶予中に、小学生を連れ回したとして再び同罪に問われた男性被告人の公判。裁判官は前回の判決を言い渡した裁判官だった。被告人は「分かります」と消え入りそうな声で答えた。
 被告人が初めて未成年者誘拐容疑で逮捕された後、被告人が以前にボランティアとして勤めていた小学校を取材した。被告人は同校でも児童の連れ回し事件を起こして解雇されていた。
 「教員になりたい」。被告人はボランティアの面接で熱っぽく話したという。だが、児童を電車で栃木県日光市に連れ出し、解雇された。同市は被告人が小学生だったころの修学旅行先。被告人は児童に「しおり」を渡し、その参加者欄には児童の名前と「先生」と書かれた被告人の名前があったという。
 被告人は前回の判決から3か月後、再び小学生を連れ回して逮捕された。公判で動機について「自分勝手な欲望を最優先させてしまった」と繰り返したが、何の欲望なのかをはっきりさせなかった。性的興味からの犯行とする検察官の質問に「一緒にいれば裸が見られると思った」と性的興味を認めた。しかし「道で子供と会っても何も思わない。実際に教育現場で子供たちに携わると欲望が出てくる」とも説明していた。
 結局、公判で被告人の動機が明確にならなかった。教師になる夢を見て、「先生」として子供に慕われることに喜びを覚えていた被告人。何度も事件を引き起こす被告人の心の闇を単純に性的興味だけで片づけてしまうのは安易な気がした。
毎日新聞  鈴木 一生


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