横浜弁護士会新聞

2007年11月号  −3− 目次

法科大学院からの報告(3) 法科大学院は実務家を育てる高等職業訓練校 関東学院大学編
 旧司法試験では論点の論証に重点が置かれていた。しかし、新司法試験では、論点の知識を前提に、それを具体的な事実に適用する能力が問われる。実際の答案の分量で言うと、大雑把なところ、旧司法試験が論証9割、事実1割とすると、新司法試験では、論証3割、事実7割という感じである。
 これは刑事系論文試験の場合であるが、公法系、民事系も基本的には同じ様な傾向にあり、いくら論証だけを丁寧に書いても合格しない。解釈論中心の旧司法試験の書き方は通用せず、実務的運用能力まで示す必要がある。新司法試験が研究者ではなく実務家になるための試験である以上、当然のことである。
 法科大学院は実務家を育てる学校である。実務家には、幅広く基本的な法律知識と、それを事実へ適用する能力が必要である。したがって、法科大学院における教育は、そのまま新司法試験にも役立つものであって、ここに矛盾はない。法科大学院は、実務家を育てる高等職業訓練校なのである。
 ところが、法科大学院の授業の中には、法律解釈論ばかりを展開し、多数の学説を並べて暗記することを学生に求めるものもあるという。多数の学説を暗記することは研究者にとっては必要であっても実務家には不要である。法科大学院は実務家を育てる場であるから、そのような授業は無益である。
 平成18年「新司法試験考査委員(刑事系科目)に対するヒヤリングの概要」においても、「刑法プロパーの授業になると指導者が旧来の教育態度を維持して、論点中心で抽象的な解釈重視の記憶本位の教育をなお行っているのではないか」と指摘されているところである。教える側の意識改革が求められているのである。
 新司法試験の合格率が当初予想より下回ったことは学生の焦りを生んでいる。学生は新司法試験を意識して履修計画を立てるので、優れた授業であっても新司法試験と無関係な科目は学生を集めることが出来ず、教育成果を上げることも困難となっているのである。
 では、合格者を増やして合格率を上げれば解決するかというと、そうでもない。単純な合格者の増員は、合格者の水準低下をもたらすだけであって解決にはならない。法的能力に欠ける法曹を社会に送り出せば、国民が犠牲になるだけである。
 合格者3千人といえば、昔のEランクの成績でも合格するということである(合格者500人時代には、1000番までをA、以下500人毎に分類した成績を告知していたことがある)。
 そんな順位で合格しても国民に迷惑をかけない法曹とするためには、法科大学院における教育を充実したものとし、成績評価を厳密にして、通過できない学生は卒業させないとする他ない。これがプロセスによる法曹養成として求められていることであろう。
 高い学費を払い、時間を犠牲にし、場合によっては仕事を捨てて努力してきた学生に対しては、皆受かって欲しいと願うばかりである。
(会員 安田 英二郎)

理事者室だより(7)
副会長 三嶋 健
会務はこれからが正念場
 厳しい残暑が続いた9月が終わろうとしている。今年4月に理事者に就任してから半年が過ぎたから、折り返し地点ということになる。過ぎればあっと言うまだが、就任披露パーティの頃を振り返ると遠い昔のようにも思う。初めての事を集中的に経験した結果だろうか。
 前半の山はなんと言っても5月の通常総会だった。私は総会の進行役を努めたが、当日の進行表を作って正副議長と2度にわたる打合わせをするなど念入りに準備をして臨んだ。緊張したが、総会自体は、波乱なくあっさりと終了した。
 総会終了後、理事者としての活動は本格化した。この間よくあった質問は「忙しいですか」だった。答えは「然り」である。理事者会、常議員会、担当委員会、日弁連関係の会議への出席、担当業務に伴う課題の実施などをしなければならず、ほとんど毎日会務に携わっている。この多忙さは新司法試験合格者を会員として迎え、会員数が飛躍的に増大するなど変革期だからかなと思う。
 12月4日に臨時総会がある。当初は6日を予定したが、日弁連臨時総会と重なったため前倒しとなった。臨時総会では我が執行部の二大政策である「ポイント制」と「10の決意」が審議される。通常総会のように波乱なしとはならないだろう。私達も活発な議論を期待している。
 いよいよ正念場だ、頑張るぞ。

こちら記者クラブ 言葉の力を信じて
 記者になって1年半。一番印象に残っている裁判は、いわゆる「ひきこもり」の青年が認知症の父親を殺害した裁判だ。
 判決は「自分の勝手気ままな生活を認知症の父親のせいで乱されることへの苛立ちを募らせ犯行に及んだ」とし、息子に懲役10年の実刑判決が言い渡された。
 私はこの裁判を傍聴しながら考えていた。
「なぜこの人は罪を犯したのだろう」と。「個」から「社会」が透けて見えた気がしたのだ。
時に「罪」は、個人が裁かれるだけでは解決しない問題をはらんでいることを感じ、そして「個」の先にある「実体」が裁かれないことに、疑問を持った。
 しかし、私が書く原稿といえば、裁判で見た一面的な「事実」を積み上げただけの、1分間のニュース原稿。
追うべきは、表層の「事実」ではなく「実体」のはずなのに、私は結局「事実」しか伝えられないでいる。
 そんなニュースから視聴者には「実体」は見えづらく、大事なことが益々見えにくくなっている気がしてもどかしく、そして痛い。
 物事は、伝え方によっていかようにも変容する。
 だからこそ、私はまず「実体」を伝えるべく努力をしなければならない。
 tvkというローカル局の小さな報道部だが、私も1人の記者として、表現することのおこがましさを感じながらも、慎重に物事を考え、「実体」に迫る原稿を書けるようになりたい。
 それが言葉の力を信じる私がすべき、最低限のマナーだと感じている。
テレビ神奈川  明石 仁志実

臨時総会のお知らせ

日時:平成19年12月4日(火) 午後1時〜
場所:横浜弁護士会 5階大会議室


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