横浜弁護士会新聞

2006年9月号  −3− 目次

私の事件ファイル(1)「刑事的威圧の罪」
 会員 小林 嗣政
 永年弁護士業務に従事していると、忘れがたい事件がいくつかあるが、その一つを紹介したいと思う。
 久しぶりで昭和60年完結事件のファイルから、知人Aの不動産侵奪被告事件の分厚い記録を取り出し、ぱらぱらとめくっていくと、当時の状況が断片的ではあるがかなり鮮明に思い出された。
 Aは三浦半島のいわゆる地つきの土地持ちで、自己所有地の管理をするうち不動産売買・仲介に興味を持つ様になり、やがて昭和52年に宅地建物取引主任者資格試験に合格して宅建業を開業した者であり、私とは業務上の相談を通じて知り合った間柄であった。
 Aは血の気が多くケンカ早いところがあったが、根が正直で誠実であり、私も同人の営業を心から応援していた。
 そんなAが昭和56年近隣の農家Bから不動産侵奪で告訴され、警察・検察庁の取り調べを受けることとなり、Aは青い顔をして私に足繁く相談に来る様になった。
 事案はA所有の竹林に通じる80メートル位の農道(青地と称する無番地の国有地)があり、その農道の両側にB所有の農地があるが、Aが農道を平坦にして竹林から採取する筍の運搬を容易にするため、農道にコンクリートを敷設したところ、同敷設したコンクリートが本来の農道をはみ出し、Bの農地を約22平方メートル侵奪したというものである。
 この数年前から、AB間には農道の位置・幅員についての争いがあり、農業委員会を介して話し合っていたが、容易に解決の見通しがなかったという経緯があった。
 私はAの相談を受け、Aが所持する当該農道の位置・幅員等に関する資料からみて、AはB所有地を侵奪していないこと、また少なくとも侵奪の認識はないと考え、同告訴事件は立件されないと確信していた。
 しかるに全く意外なことに、Aが不動産侵奪被告事件として起訴され、当初単独審理、後に合議事件として審理されるに至った。
 宅地建物取引主任者は禁錮以上の刑に処せられた場合、その登録は取り消される。私はAが苦労して試験に合格し真面目な営業をしていること並びに同人の人柄からみて他人の土地を侵奪することは考えられないこと、更には数年に亘るAとBとの土地範囲の争いを刑事告訴という一方的強硬手段をもって有利に解決しようとしたBの手法に憤りを感じ、本件刑事事件は何としてもAの潔白を勝ち取らねばならないと決意した。
 4年数か月の審理の後、昭和60年暮幸いAに対し無罪判決がなされ、控訴がなく確定した。審理内容は刑事裁判というより、土地範囲に関する民事訴訟そのものであった。
 そもそも本件事案は不動産侵奪存否の前に、農道の位置・幅員の確定が問題であったのであるから、民事的解決が前提とならねばならない事案であった。
 私も時に、係争事案解決に際して、ともすれば告訴による刑事的威圧の助けをかり、有利な解決を図りたい誘惑にかられる。
 しかしながら、4年数か月間のAの苦悩を身近にみて、本来民事案件として解決すべき事案を、あえて告訴という手法を用いることについては、慎重であらねばならないとあらためて自戒させられた事件であった。

理事者室だより5
法テラス開業に向けて全員一丸
副会長 大谷 豊
 副会長になり4か月が過ぎました。当初は担当の委員会などに追われる毎日でしたが、ようやく落ち着いてきた感じです。何が落ち着いたのでしょうか。副会長職としての立場を少し理解したように思います。理事者室の机の位置の関係か、会長の顔を真正面に見ることができます。時々、会長の疲れた顔を見るようになりました。私たちが補佐役としてもっとしっかりやらなければと思いながら、空回りしないように気をつけています。
 法テラスの開業が間近に迫っています。法律相談センターの事務所相談への対応や公設事務所の見直しなど、これに関連して今まで考えもしなかった問題が次から次に出てきます。即座に対応しなければ間に合いません。副会長が全員一丸となって会長を支えるべく努力しています。
 他方、事務所事件はどうなっているでしょうか。事務所にいる時間が今までよりも少なくなっていますが、関係者にできるだけ迷惑をかけないよう、事務所にいるときはむしろ時間を有意義に使えるようになりました。
 なお、支部枠副会長は、理事者会のある日に日直も担当します。負担をできるだけ軽減するためだと説明を受けましたが、これは意外に大変な仕事です。理事者会は場合によっては8時過ぎまでかかることもあります。その後に、日直の仕事を処理しなければなりません。アーッ! こんなに仕事をしたことがあったでしょうか。しかし、最後に一言。副会長職はおもしろくて楽しいです。


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