4年目の新人 |
55期 井上 潮会員 |
登録4年目に「新人」と冠するコラムを執筆するのは、留年したようで気恥ずかしい。 |
千葉で刑裁修習中に判決起案をした、覚せい剤の所持及び自己使用事件。被告人である初老の女性の風貌や物腰からも、彼女が相当な覚せい剤耽溺者であるという印象。夫の入院中に暴力団関係者など怪しげな男たちが家に上がりこみ、覚せい剤を頻繁に使用するようになったという。彼女には前科がなく、「相場」どおり執行猶予付き有罪判決であった。判決言渡し直後、それまで無言だった彼女は、法廷の出口で突然振り返り、裁判官に向かい、途方に暮れたように「じゃあ、私はこれからどうすればいいんですか」と尋ねた。 |
私も少し困った。判決が出れば、「事件」は終わりなのか。彼女は、この後、まともに生きて行くことができるのか。後のことは本人と行政の問題、一種の社会的分業の問題なのか。とはいえ、自分に何かできるのか。法曹は社会のどこにいて、何をしているのか。 |
登録して最初の国選事件は、ドヤで一人暮らしをしていた男性が同じくドヤで一人暮らしをしていたおばあさんから金を盗んだという窃盗事件。簡裁から地裁に移送され、被告人が一種の痴呆症患者であることが分かるなどし、弁護人受任後1年5か月かかって、執行猶予つき有罪判決(心神耗弱)。私は、事前に精神病院への入院を手配し、判決言渡し直後、裁判所の門前に待たせたタクシーで彼と精神病院に直行した。せっかく長期の勾留が終わったと思ったら、弁護人の手で入院。しかし、当時の私には、これしか思いつかなかった。今も思いつかない。しかし、本当にこれで良かったのか。 |
刑事事件に限らず、民事事件や少年事件でも、自分の仕事の意義について、すっきりと得心できたことはない。 |
高級ビジネスマンにも赤ひげ先生にもなれない私が、5年後も弁護士をしているのか、それすら自信がない。 |