藤村 耕造会員 |
友部正人の「一本道」は恋人と別れて呆然とし、「ふと気づくと夕焼けでした」という暮景の描写から始まる。「中央線よ 彼女の胸に突きさされ」という感情の表出があり、東京を見知らぬ街が続く一本道と表現しつつ、最後は深夜酔いつぶれたお銚子の隙間に昔のふたりの姿を蘇らさせて静かに終わる。 |
こんな曲まで含めて、「四畳半ソング」と一くくりにして捨て去った時代があるわけだ。フォークソング特集等では取り上げられない曲だが、少し前に辻香織という女性がアルバムでカバーしているのに気づいた。 |
彼女は、幼いころ父親につれられて、早川義夫(元ジャックス)のコンサートに行き、フォークに興味をもったという。 |
佐渡在住の兄弟デュオ「平川地一丁目」は、現役高校生だ。父親が収集した70年代フォークの「レコード」を聴きながら育ったそうで、シングルCDのカップリングで多数のフォークの曲をカバーしている。村下孝蔵の「初恋」は、淡い初恋時代を振り返る内容だが、彼らが歌うと「現役」世代だけに痛切な曲に変わる。 |
「松山行き」ではアコースティックギター中心の編曲になっているので、「原曲よりフォーク的」という「矛盾」が楽しめる。 |
パンク・ロック系にも、フォークの影響をうけた人たちがいる。 |
ガガガSPは「倍速で歌う吉田拓郎」だ。リードボーカルのコザック前田はソロアルバムで泉谷しげるとコラボしている。 |
ハナレグミもパンク系のボーカルがソロデビューしたもので、「家族の風景」は、最近亡くなった高田渡を髣髴とさせる。「マタ〜リとしたカントリー」という形容は、そのまま在りし日の高田渡のコピーに使えそうだ。 |
電車男のテーマソングで昨年ヒットを飛ばしたサンボマスターは、ニート時代に下宿で加川良、はっぴいえんど(遠藤賢二)ばかり聴いていた。オフコースから始まった「キリンジ」、泉谷しげる、三上寛の影響のもとに自殺願望をテーマに据えた「野狐禅」、アメリカフォークの影響を受けた「モンゴル800」など、他にもフォークの流れを感じさせる人たちがいる。滅んだと思っていたフォークは今でもかろうじて生き続けているようだ。この種の人たちを探すのが最近の楽しみになっている。 |
音楽に「いやし」「励まし」といった効用が要求される潮流のなかで、70年代フォークの「後継者」たちは、かつての先輩たちのように、やや後ろ向きの姿勢で、個人的な感情を歌い続けている。 |
彼らが同化消滅の道をたどるのか、あるいは彼らにも居場所があって、独自の道を歩き続けてゆくのか。行く末に興味を感じる。 |