横浜弁護士会新聞

2006年12月号  −2− 目次

労働審判経験交流会 4名の会員が貴重な経験を語る
 10月3日当会会館で労働審判経験交流会が開催された。労働審判手続には、早期解決のため、期日は3回まで、口頭主義、法律専門家ではない審判員の関与等、これまでの民事訴訟とは異なる特徴がある。施行から半年が経過した労働審判法の実際について、同手続を経験した4名の会員から経験談が報告された。
第1回期日の重要性
 期日が3回に限定されるため、第1回期日で争点が整理される。申立書や答弁書は、充実した記載が必要であり、法律専門家でない審判員にも分かりやすく書くことが肝要である。
人証調べの特殊性
 人証調べは、いわゆる主尋問からでなく、審判官や審判員から質問が始まった。そこで、事前に依頼者と想定問答をする等、十分な準備が必要である。
早期解決
 報告者の多くは、解決が早いとの印象を述べ、早期解決の趣旨は実現しているようである。特に期日は3回までという点は、厳密な運用がなされている。
 そこで、和解での譲歩範囲についても、事前に十分に打合をしておく必要がある。
問題点等
 陳述書以外の資料が事前に審判員の手に渡らず、審判員が十分な準備をできないまま審判に臨んでいる等の問題点も指摘された。
 同手続は、職業裁判官以外の司法参加、早期解決の徹底といった点で、新たな試みが多くある。そこで、同手続きをより有効に機能させるべく、弁護士と裁判所との意見交換が大切である。同手続についての要望等は、民事裁判委員会又は人権擁護委員会の働く人の権利に関する部会まで。

専門実務研究会報告(6)
 談合・横並び体質からの脱却を図り21世紀に相応しい競争政策を確立するため、05年4月に独占禁止法が改正され、06年1月から施行された。今回の法改正のポイントは、第1に違反行為の抑止力強化、第2に事件処理の効率化・迅速化である。
「違反行為の抑止力強化」の観点からの改正
 第1に、課徴金額が大幅に引き上げられた。課徴金額は、当該行為(対価に影響があるカルテルおよび支配型私的独占)の実行としての事業活動を行った日(始期)から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日(終期)までの実行期間における当該商品又は役務(違反行為の対象となった商品や役務)の政令で定める方法により算定した売上高(購入カルテルの場合は購入額)に一定率を乗じた額であり、算定期間は最大3年間である。また、課徴金の一定率が6%から10%に引き上げられた。
 第2に、課徴金に加算制度が導入された。過去10年以内に課徴金納付命令を受けた者が再び違反行為を行った場合は、課徴金が5割増となり実行期間の売上高の最高15%の課徴金が課される。
 第3に、カルテルから離脱し公正取引委員会に違反行為を通報した者に対する優遇措置として課徴金減免制度(リーニエンシー)が導入された。公取委が事件として調査をする前か後かで取扱いが異なり、調査開始前に最初に報告した者に対しては課徴金が全額免除されるとともに刑事告発も免除され、2番目の報告者に対しては課徴金が5割減額、3番目に対しては3割減額される。調査開始後の報告者に対しては順位に関係なく3割が減額される。
 第4に、刑事告発を行うための調査である犯則調査の権限が公取委に付与された。これに伴い公取委に犯則審査部が設けられ陣容も大幅に強化された。
「事件処理の効率化・迅速化」の観点からの改正
 第1に、違反事件処理手続が大幅に変更された。改正前は、公取委は違反行為があると認めるときは、違反者に対し適当な措置をとるべきことを勧告し、違反者が応諾すると審判手続を経ることなく審決(勧告審決)を行い、審決が確定した後に課徴金納付命令手続に入り、事前手続を経て納付命令を行い、命令の名宛人が命令に不服の場合に審判手続を経て審決により課徴金納付を命ずるという仕組であった。改正後は、勧告制度が廃止され、行政処分としての排除措置命令及び課徴金納付命令を同時並行的に行う仕組となった。また改正前は、違反行為がなくなって1年を経過すると排除措置を命じることができなかったが、改正後は、課徴金納付命令と同様、3年以内であれば命じられるようになった。この改正は、課徴金制度に新たに加算・減免制度が導入されたことに伴うものである。
 第2に、従来、課徴金納付命令に設けられていた事前手続が排除措置命令にも導入された。排除措置命令をしようとするとき、公取委は当該命令の名宛人となるべき者に対し、予め意見を述べ及び証拠を提出する機会を付与しなければならず、命令の名宛人になるべき者は、意見を述べ又は証拠を提出するため弁護士を選任できるようになった。
日弁連の意見書
 現在、内閣府大臣官房に設置された「独占禁止法基本問題懇談会」において、課徴金制度のあり方、違反事件処理手続や審判手続きのあり方等について検討が行われている。06年7月、独占禁止法基本問題検討室から「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理」が発表され、これに対し日弁連は同年9月5日に意見書を提出した。上記改正点に関する主な意見は次のとおりである。
・課徴金については必要であればさらに一定率の引き上げを検討すべき
・課徴金減免制度は原則として現時点で改正する必要はない
・課徴金制度に公取委の裁量を取り入れることには現時点では否定的
・企業における法令遵守の取り組みを課徴金の減額要素とすることには反対
・排除措置命令等に対する不服がある名宛人は、審判請求するか命令取消訴訟を地方裁判所へ提起することができることとし、不服申立てにつき選択性を採用すべき
(会員 鈴木 満)

共謀罪新設に反対する市民集会開催 幅広い年齢層の市民が結集
 10月13日当会会館で「共謀罪の新設に反対する市民集会」が開かれた。
 この集会では、東京弁護士会の山下幸夫弁護士を講師に招き、(1)国会審議で明らかになった問題点(2)日弁連で調査した条約批准国における国際組織犯罪防止条約5条の履行状況(3)条約審議の際の日本政府の意見と修正案等を軸に、共謀罪の新設に係わる国内外のこれまでの動きや、同罪新設がいかに深刻な問題を孕んでいるかという点につき、パワーポイントを使用した大変分かりやすく詳細な講義があった。
 その後、山下弁護士に対する質疑応答、そして、会場の参加者から各々の問題意識に基づいた有意義な発言が数多くあった。会場には、20歳代からかなり高齢の方まで幅広い年齢層の市民が集まり、山下弁護士や発言者の話を最後まで熱心に聞き入っていた。
 何故共謀罪を新設する必要があるのか、共謀罪の新設を急ぐ必要があるのかにつき、政府はなんら合理的な回答を示さないままだが、法務省が99年に条約審議の場で「共謀罪制定は日本の法原則になじまない」と明言していた事実が近時表面化するなどしている。
 今臨時国会(10月26日から12月25日)を前に、改めて共謀罪を巡る審議の流れと問題点を理解する上で、大変意義深い市民集会であった。
(刑事法制委員会委員 中原 都実子)

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