ページの先頭です。
本文へジャンプする。
サイト内共通メニューここまで。

会長声明・決議・意見書(2024年度)

裁判の公開の原則が損なわれないことを求める会長声明

2025年01月17日更新

 当会は、横浜市教育委員会が、他の傍聴者の公判傍聴を排除することを企図して、組織的に多数の職員を動員し、職務として公判傍聴させ、憲法上の制度として保障される裁判の公開原則の趣旨を損ない、被告人の公開裁判を受ける権利を侵害するおそれを生じさせたことについて強く抗議する。

 

  1.  2019年及び2023年から2024年にかけて、教員による児童や生徒に対する性犯罪事件において、横浜市教育委員会が、組織的に多数の職員を動員し、職務として公判傍聴させ、当該事件の傍聴席を埋めていた事実が判明した。
     横浜市が依頼した検証チームによる検証結果報告書によれば、横浜市教育委員会が公判傍聴への動員を行ったことが明らかな事案は4事案であったと認定されている。
     認定された4事案のうち、3事案においては、横浜市教育委員会において、傍聴動員の意思決定がなされ、協力依頼文書を起案し、動員の割り振りが行われたとされ、他の1事案においては、NPO法人及び保護者から再発防止策を講じること等様々な申し入れがあり、刑事裁判についても「NPO法人や教育委員会で多くの傍聴席を埋め尽くしたい。特に再発防止マニュアルをつくる人には参加してほしい」との要望が出され、この要望を受けて、教育委員会前教育長により動員の意思決定がなされたとされている。
     また、いずれの事案においても、横浜市教育委員会には、他の傍聴者を排除する目的があったと認定されている。
     このように、横浜市教育委員会は、他の傍聴者を排除することを企図し、傍聴動員の意思決定をして、各部署が確保すべき人数等を指示し、公判傍聴に行かせるということを、組織的に行っていた。
  2.  憲法第82条第1項は、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と裁判の公開原則を定めているところ、裁判の公開原則は、国民の監視、批判により、公正な裁判を確保することを目的とした憲法上重要な原則である。
     殊に刑事裁判においては、裁判官の恣意・権利濫用から被告人を守るという目的を有している。すなわち、裁判の公開原則によって、裁判官のみならず、訴訟当事者、検察官、弁護人もまた、国民の監視・批判にさらされることとなり、緊張感をもった刑事裁判が実現され、被告人の権利の保護、公正な裁判が実現されるのである。
  3.  また、憲法第37条第1項は、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定し、被告人に公開裁判を受ける権利を保障している。これは、刑罰が人の自由に対する重大な侵害であることに鑑み、そのための手続は、国民が誰でも傍聴できることを前提に慎重かつ公明正大なものでなければならないということを表した規定である。憲法は、第37条から第39条にかけて、刑事裁判手続に関する各種の保障を定めているが、いずれも被告人の権利を保障しようとするものである。
     このように裁判の公開原則は、刑事裁判において、被告人の権利であると共に、裁判の公正、裁判に対する国民の信頼確保のための憲法上重要な原則である。
  4.  認定された4事案において、横浜市教育委員会は、他の傍聴者の公判傍聴を排除することを企図して、組織的に多数の職員を動員し、職務として公判傍聴させており、当該行為は、憲法第82条第1項が規定する裁判の公開原則及び第37条第1項の趣旨を没却するものであって、強く非難されなければならない。
  5.  以上から、当会は、横浜市教育委員会が、憲法上の制度として保障される裁判の公開原則の趣旨を損ない、被告人の公開裁判を受ける権利を侵害するおそれを生じさせたことについて強く抗議する。
     また、横浜市教育委員会の行為に留まらず、今後も裁判の公開原則が損なわれることがないよう強く求めるものである。
  6.  

    2025年1月16日

    神奈川県弁護士会

    会長 岩田 武司

     

 
 
本文ここまで。