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米兵による性的暴行事件の発生及び自治体への情報提供がなされなかったことに抗議し、日米合意の遵守を求める会長声明
会長声明・決議・意見書(2024年度)
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米兵による性的暴行事件の発生及び自治体への情報提供がなされなかったことに抗議し、日米合意の遵守を求める会長声明
2024年10月15日更新
またしても、沖縄県において、米兵による女子児童に対する性的暴行事件が起きた。しかもこのことについて、米国からも日本政府からも地元沖縄県に対して、何らの情報提供もされなかった。 当会は、これらに対し、米国及び日本政府に対し、強く抗議する。
同事件は、米兵が、2023年12月、16歳未満の年齢の児童に対して犯したとされる犯罪であり、加害者米兵は、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で、本年3月、那覇地方裁判所に起訴された(以下「12月事件」という。)。 起訴時に、外務省から駐日米大使に対し、綱紀粛正と再発防止の申し入れがなされたというが、地元自治体である沖縄県には情報提供がなされず、沖縄県が12月事件を把握したのは、本年6月、公判期日を報じる報道によってであったという。 そしてその後、沖縄県では本年1月及び5月にも性的暴行を加えたとして米兵が逮捕されていたこと、神奈川県でも公表資料が残る2021年から本年6月末までの間に米軍関係者による性犯罪が2件発生していたこと、米軍三沢基地のある青森県、米軍岩国基地のある山口県でも米軍関係者が性犯罪容疑で書類送検されていたこと、いずれについても地元自治体に情報が提供されていなかったことが明らかとなった。
日米合同委員会は、1995年に起きた、米兵が小学生の女児を集団で拉致し複数で性的暴行を加えた事件とこれに対する沖縄県民の強い怒りを踏まえ、1997年3月、「在日米軍に係る事件・事故発生時における通報手続」を合意し、「在日米軍に係る事件・事故に対する日本側関係当局の迅速な対応を確保し、かかる事件・事故が地域社会に及ぼす影響を最小限のものとするために」は、事件・事故の「情報を日本側関係当局及び地域社会に対して正確にかつ直ちに提供することが重要である」との認識の下、公共の安全に影響を及ぼす可能性のある事件が発生した場合には、米側が外務省及び現地防衛施設局(現地方防衛局)に通報することが定められ、外務省は防衛施設庁(現防衛省)・現地防衛施設局(現地方防衛局)に通報することにより、地元自治体及び関係団体に情報が提供される仕組みが作られている。 しかし米国は日本側に12月事件を伝えておらず、上記通報手続合意の違反がある。
また、12月事件を把握した警察は外務省に伝えたが、外務省が防衛省に伝えなかったため、沖縄防衛局から沖縄県への通報もなされなかったという。 地方自治体は「住民の福祉の増進を図る」(地方自治法1条の2)との役割を担い、犯罪被害者支援条例の制定、同支援推進計画の策定、見舞金の給付等をはじめとして犯罪被害者に対するケアや犯罪の再発防止のための施策を担う。しかし、犯罪発生の事実が知らされないのでは、自治体はかかる措置を実施し、その役割を果たすことができない。 米軍関係者による犯罪は、日米地位協定により、公務内の犯罪は日本が第一次裁判権を有せず、公務外の犯罪であっても当該米軍関係者の身柄が米軍基地内にあれば、起訴されるまでは日本の当局が身柄を拘束することができない。かかる特権の下で日本の刑事手続きの適用は制限を受けざるを得ず、米軍関係者による犯罪から身を守るには、住民自身の注意や、自治体による犯罪抑止策が不可欠である。 12月事件の情報が適切に通報されていれば、住民に対する注意喚起、パトロールの実施、行動規制の実施をはじめとする米軍に対する綱紀粛正と再発防止策の実施の申入れ等の対策がとられて、1月及び5月に沖縄県内で起きた事件を防ぎえた可能性がある。 外務省は防衛省・沖縄防衛局に通報しなかった理由として被害者のプライバシーの保護を挙げるが、自治体が、被害者のプライバシー保護を図った上で上記各対策を実施することは十分に可能である。 沖縄県は、12月事件を覚知できず、それゆえ第2、第3の被害を防止する策を講じることができなかったのであるから、外務省の対応は、住民の生命、身体、自由にかかる人権を軽視するものであるとの非難を免れない。 のみならず、住民の安全に対する責任を負う地方自治体の自治権の侵害でもある。
沖縄では、1945年から2021年までの間の米兵による性犯罪の被害者は、少なくとも948人に上ると報じられる。米軍関係者による犯罪、なかでも性犯罪の抑止は沖縄県にとって切実な課題である。 米国の通報手続き違反及び日本政府による情報秘匿行為には、これまでの数多の米軍関係者による性犯罪に対する反省も、被害者や、米軍関係者による犯罪に不安を覚える住民に寄り添う気持ちも全く感じられないのであり、沖縄県民ひいては日本国民の人権(憲法11条及び13条)を軽視し、踏みにじるものであるといわざるを得ない。同時に、米軍犯罪被害に苦しみ、その抑止に力を注ぐ沖縄県を軽視し、憲法が保障する地方自治(憲法92条)を侵害するものである。 神奈川県においても2件の米軍関係者による性犯罪被害について情報提供がなされなかったことが明らかになっており、沖縄県と同様の状況にある。今回の事態を座視することはできない。 当会は、複数の重要な米軍基地を抱える神奈川県において活動する、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士により構成する団体として、冒頭で述べたとおり、米国及び日本政府に対し抗議するとともに、米軍に対して性犯罪を含む一切の犯罪の再発の防止を求め、同時に、今後万が一米軍関係者による事件・事故が発生した場合には日米合同委員会合意を遵守して迅速かつ的確に関係各機関に対する通報をなすよう求める。
2024年10月10日
神奈川県弁護士会
会長 岩田 武司
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