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会長声明・決議・意見書(2024年度)

法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の要綱(骨子)案についての会長声明

2024年10月16日更新

  1.  2023年(令和5年)12月18日、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「法制審部会」という。)において、事務当局作成の要綱(骨子)案(以下「要綱(骨子)案」という。)を法制審部会の意見として法制審議会(総会)に報告することが決定され、2024年(令和6年)2月15日、法制審議会は要綱(骨子)案を採択し、小泉龍司法務大臣に答申した。
  2.  情報通信技術は、国民の権利利益の保護・実現のために活用されるべきであり、一方で憲法上保障された権利が制約されることのないよう、慎重な検討及び制度設計がなされることが必要である。
     当会では、これまでにもオンライン接見に関して2023年(令和5年)5月25日に会長声明を発出して、法制審部会における刑事訴訟法等の改正の議論において留置施設にいる被疑者・被告人と弁護人とのオンライン接見の実現を強く求めてきた。
     しかしながら、要綱(骨子)案は、電磁的記録による令状の発付・執行等に関する規定の整備や刑事施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の整備等、捜査機関や裁判所の便宜のための制度は盛り込まれているが、オンライン接見については取り上げられていない。接見交通権保障の改善が技術的に可能であるのに、それをないがしろにすることは許されない。この点は当会において2023年(令和5年)12月21日に会長談話を発出して指摘したとおりである。
  3.  要綱(骨子)案には、映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の新設や証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充等が盛り込まれており、被害者の保護や訴訟関係人の便宜に資するものも含まれている。
     しかしながら、要綱(骨子)案は、法制審部会の設置に先立つ「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」による「取りまとめ報告書」では議論や検討もされていなかった、新たな罰則や強制処分を創設することとしている。とりわけ、電磁的記録提供命令の創設は、捜査機関が、電磁的記録を利用する権限を有する者に対して、刑事罰をもって電磁的記録の提供を強制するものである。
     今日、スマートフォンやクラウドシステムには大量のプライバシー情報や業務上の秘密が電磁的記録として保管されている。捜査機関がそのような電磁的記録を収集・集積することは、プライバシー権などの憲法上の権利を著しく侵害する危険を生じさせるものである。したがって、捜査機関が電磁的記録の提供を命じるに当たっては、被疑事実との関連性のない電磁的記録をできる限り収集してはならないことを明確にし、情報を取得された国民に不服申立ての機会を保障して違法な処分により取得された電磁的記録の消去を義務づけるなど、厳格な要件・手続を定めることが必要不可欠である。
     しかるに、要綱(骨子)案はこのような厳格な要件を設けておらず、情報を取得された国民にその旨を通知して不服申立ての機会を保障することも、違法な処分により取得された電磁的記録の消去を義務付けることもしていない。このような要綱(骨子)案の内容が修正されることなく法制化された場合、捜査機関によって犯罪と無関係な国民の情報や秘密として保護されるべき情報が収集・蓄積されていくことは避けられない。それは、個人のプライバシー権が侵害されるにとどまらず、企業、労働組合、報道機関、市民団体、政党等の団体の活動が監視されることとなる危険も有するものであって、表現活動一般への萎縮効果等の影響は極めて大きく、看過することのできないものである。また、被疑者・被告人と弁護人との間の通信内容が捜査機関に把握されるとすれば、憲法で保障された秘密交通権が侵害される危険性が高い。
  4.  加えて、これも「取りまとめ報告書」では議論や検討もされていなかった通信傍受対象犯罪の追加が盛り込まれており、いわゆる強盗利得罪、詐欺利得罪、恐喝利得罪が対象犯罪に追加されている。これは情報通信技術を刑事手続に活用するという法制審部会の方針とは直接的な関連性が乏しい通信傍受法の対象犯罪に関する問題を紛れ込ませ、この機に一般的な犯罪類型にまで通信傍受法の対象犯罪を拡大させようとするものであり、その導入過程において不当というほかない。
  5.  このように、要綱(骨子)案は、国民のプライバシー権を始めとする憲法上の権利を保護する仕組みを欠く内容であり、捜査機関の便宜のための制度を羅列する一方、被疑者・被告人や弁護人の防御権をないがしろにするものであって、到底容認できるものではない。
  6. よって、当会は、要綱(骨子)案にかかる上記内容について強く反対するものである。

     

     

     

     2024年10月10日  

     神奈川県弁護士会 

    会長 岩田 武司

     

     

 
 
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