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会長声明・決議・意見書(2024年度)

辺野古新基地建設工事に係る国の代執行に抗議し、 沖縄県との真摯な対話を通じた地方自治の保障を求める会長声明

2024年08月13日更新

  1   本件代執行

 沖縄県辺野古崎への米軍新基地建設をめぐり、国土交通大臣は、昨年12月28日、沖縄県知事に代わって、沖縄防衛局がした公有水面埋立工事の設計概要等の変更承認申請(以下「変更承認申請」という。)に対する承認処分(以下「本件代執行」という。)を行った。そして沖縄防衛局は、本年1月10日に工事に着手し、8月以降には本格着工をすると沖縄県に通知した。大浦湾の海底に確認された超軟弱地盤に対応するための変更を伴う、大がかりな埋立工事が始められた。

 国が、地方公共団体の法定受託事務を代執行するのは、2000年の地方分権改革実施後初めてのことである。

 本件代執行は、昨年12月20日の福岡高裁那覇支部判決に基づくもので、最高裁も本年2月29日、高裁判決に対する上告を受理しない決定をした。

 

  2   代執行の依拠する最高裁2023年9月4日判決の問題点

 本件代執行を認めた上記高裁判決は、最高裁の昨年9月4日判決に依拠したものである。この最高裁判決は、国土交通大臣の沖縄県知事に対する変更承認申請を承認せよとの是正の指示に対し、知事がこれを違法な国の関与だとして地方自治法251条の5第1項1号に基づいて提起した関与取消訴訟について、この是正の指示を適法だと認めたものである。そしてその理由は、法定受託事務である公有水面埋立てについての知事の変更不承認処分について、沖縄防衛局の行政不服審査法に基づく審査請求がなされ、国土交通大臣により当該処分を取り消す裁決がなされている場合、知事はその裁決に拘束され、これに従って承認処分をしなければならないからというものである。

 しかし、審査請求に対する国土交通大臣の裁決の存在を理由として国土交通大臣自らの是正の指示を適法であるとしたこのような最高裁の判断に対しては、地方自治法の是正の指示と行政不服審査法の裁決という、本来別個の国の関与に係る2つの制度を混同するものであり、地方自治の保障の観点から有害である等の批判が、多数の行政法及び憲法の研究者からなされている(2023年9月27日行政法研究者有志「声明 9.4辺野古最高裁判決および国土交通大臣の代執行手続着手を憂慮する」、同年10月27日憲法研究者有志「辺野古新基地建設に関して代執行を求める提訴を直ちに取り下げ、対話による解決を岸田自公政権に求める憲法研究者有志の緊急声明」)。

 

  3    国は埋立工事の影響について地元地方公共団体と真摯な協議を尽くすべきこと

 そもそも、都道府県の法定受託事務の国による代執行は、その事務を管理・執行する地方公共団体の意思に反し、その権限を奪って国の意思を貫く究極の手段であり、これを安易に認めれば、国と地方公共団体との対等平等を旨とする地方自治の本旨の基礎を揺るがすことになる。かかる手段に訴える前に、真摯な協議を尽くすことは必要不可欠というべきところ、本件埋立工事において国がその努力を尽くしたとは思われない。

 辺野古における米軍新基地建設は、既存の施設を米国に提供してきたこれまでの基地提供とは異なり、沖縄県が管理する公有水面を埋め立てて土地を造成し、その上に新たな基地を建設するものである。

 公有水面の埋立てにより、生物多様性が極めて高い大浦湾の自然環境は不可逆的に破壊される。その上、当該区域は超軟弱地盤であるため、埋立てのために7万本以上の杭打ちを行い、工期も9年3か月に及ぶ予定とされるが、それでも完成の見通しすら危ぶまれている。これらは、もともと国連生物多様性条約にも反し、「生物多様性の損失を止め反転させる」等という2022年12月に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組の新たな世界目標にも逆行するものである。

 公有水面の埋立て及び新たな米軍施設の建設・運用により沖縄県が受ける影響、沖縄県の住民の人権の侵害の有無や程度は、国ではなく、沖縄県こそが最もよく判断しうるのであり、憲法が住民自治と団体自治を認めて地方自治の制度を保障した意義はここにある。国が、沖縄県との真摯な対話を経ることすらせずに、沖縄県民の意を受けた沖縄県知事の判断を踏みにじって「承認処分」を代執行することは、憲法が保障する地方自治の本旨を損なうものと言わなければならない。

 本件代執行を是認した前記福岡高裁那覇支部判決も、特に「付言」をして、法定受託事務に関する国の関与については、その目的を達成するために必要な最小限度のものにするとともに、地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならないとされていること(地方自治法245条の3第1項参照)も踏まえれば、今後も繰り返し訴訟による解決が図られることは相当ではなく、「国と沖縄県とが相互理解に向けて対話を重ねることを通じて抜本的解決の図られることが強く望まれている」と指摘するところである。

 

  4    地方自治の本旨が保障されるべきこと

 神奈川県には、沖縄に次いで多くの米軍基地が存在しており、これらの基地から生ずる被害は、地元の住民にとっても地方公共団体にとっても極めて切実な問題である。そのため当会はこれまで、「普天間飛行場代替施設建設事業の見直しを求める会長声明」、「辺野古沿岸への土砂投入を中止し、普天間飛行場代替施設の建設について根本的に見直すことを求める会長声明」、「憲法の基本原則の堅持と地方自治の本旨の尊重を求める総会決議」を公表して辺野古米軍新基地建設に反対してきた。かかる立場から、本件代執行により、沖縄県の意思に反して大浦湾等の埋立てと米軍新基地建設工事が進められることを傍観することはできない。近時、またしても沖縄県では、そして神奈川県等においても、米軍関係者による性暴力事件が次々と発覚し、しかもそれが地元の地方公共団体に知らされてこなかったという問題が露呈した。米軍基地による環境破壊と人権の侵害、そして地方自治の侵害は放置することができない。

 よって当会は、国の本件代執行に抗議し、国に対し、地元の住民の基本的人権とその意思及び地方公共団体の判断を尊重するために、本件埋立工事を停止し、この問題について沖縄県との真摯な対話を尽くして問題の解決を図ること、及びそのことを通じて地方自治の本旨が保障されることを求めるものである。

 

2024年8月8日

神奈川県弁護士会

会長 岩田 武司