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会長声明・決議・意見書(2024年度)

最低賃金の大幅な引き上げ及び中小企業への十分な支援策を求める会長声明

2024年07月17日更新

   神奈川県弁護士会は、神奈川地方最低賃金審議会に対し、最低賃金の大幅な引き上げを答申するよう求めるとともに、国に対し中小企業への十分な支援策を講じるよう求める。

 

  1.  昨年度、神奈川地方最低賃金審議会は、最低賃金の引き上げ額を41円とする答申を行い、これに基づき神奈川県の最低賃金は1,112円となった。しかし、これでもまだ労働者の生計費を賄えず、労働の対価として不十分な金額と言わざるを得ない。
     時給1,112円というのは、1日8時間・週40時間働いたとしても1ヶ月で約19万円・手取り額では15万2,000円ほどにしかならない。2023年度家計調査によれば、勤労者単身世帯でも、教養娯楽費を除いた消費支出が16万円を超え、さらに、教養娯楽費を含めた消費支出は18万円を超える。映画館で映画を観れば2,000円ほどがかかり、文庫本の平均価格は800円を超える現代において、この賃金水準では健康で文化的な生活を享受することは到底できない。
  2.  最低賃金法9条2項が、地域別最低賃金は地域における労働者の生計費を考慮して定めなければならないとしているところ、当然、近時の物価上昇の影響で労働者の生計費も高騰している。2024年5月の消費者物価指数は、前年同月比2.8%増という高い伸び率となった。物価の上昇による労働者の生活への影響は顕著であり、とりわけ低賃金労働者の賃金は、最低賃金額に依存する部分が大きく、近時の物価高に対応したものとなっていない。また、2023年の神奈川県の最低賃金引き上げ時点で、引き上げ後の最低賃金以下の賃金で働いていた労働者は、全体の約28.4%を占めており、多くの労働者が最低賃金に近い水準で働いていた。最低賃金の引き上げによって、これらの低賃金労働者の労働条件を改善することが期待できる。
  3.  当地域別最低賃金を定める際の考慮要素とされる労働者の生計費について、最低賃金法9条3項が「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性」を求めている。しかし、実際には、未だ最低賃金と生活保護との逆転現象が解消されていない。複数の裁判所で2013年の生活保護基準引き下げを違法とする判決が出ており、2023年11月30日には名古屋高裁が国に対して原告らへの賠償を命じた。かかる低廉な生活保護支給水準においても、例えば、横浜市で中学生二人を養育する40代シングルマザーが生活保護を利用した場合、児童手当、児童扶養手当を含めた額は30万円を超え、その全額が可処分所得となる。しかし、生活保護を利用していない世帯の賃金月額は最低賃金を1,112円で1日8時間・週40時間働いた場合の手取り額で15万2,000円ほどである。このように最低賃金1,112円では、児童手当・児童扶養手当が支給されることを考慮したとしても、最低賃金と生活保護との逆転現象はまったく解消されていない。労働者がフルタイムで働いてもなお生活保護基準以下にとどまるような最低賃金額であってはならず、最低賃金のさらなる引き上げが必要である。
  4.  日本においては中小企業が雇用のおよそ7割を担っているところ、2024年の東京商工会議所及び日本商工会議所の調査によれば、中小企業の約74.3%が2024年度の賃上げを実施予定である。中小企業のさらなる積極的な賃上げを促すために、業務改善助成金のさらなる拡充、賃上げ促進税制、人件費の価格転嫁のための環境整備、年収の壁の解消などの中小企業への十分な支援策が必要である。
  5.  以上のとおり、最低賃金の引き上げは急務といえるので、神奈川県弁護士会は、神奈川地方最低賃金審議会に対し、最低賃金の大幅な引き上げを答申するよう求めるとともに、国に対し中小企業への十分な支援策を講じるよう求める。

 

2024年7月11日

神奈川県弁護士会

会長 岩田 武司

 

 
 
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