2024年07月16日更新
当会は、平成28年10月21日付「地方消費者行政の充実・強化のための継続的な財源確保を求める会長声明」及び平成30年7月12日付「地方消費者行政の充実・強化のための恒久的財源措置を求める会長声明」を発表しているところではあるが、ここで改めて国に対し、次のことを強く要請する。
以下、理由をのべる。
消費者庁の令和6年版消費者白書によれば、令和5年度の全国の消費生活相談件数は約90.9万件であって前年度よりも3万件以上増加した。同白書による消費者被害・トラブル額の推計値は約10.6兆円であり、前年度よりも2兆円以上増加している。また、先頃、神奈川県が発表した「令和4年度神奈川県内における消費生活相談概要」によれば、同年度に神奈川県内の消費生活相談窓口で受け付けた消費生活相談総件数(「苦情」と「問い合わせ」の合計)は6万4143件と高水準であり、このうち苦情相談は5万9661件で前年度(5万5229件)と比べ8%増加している。
このように消費者被害は後を絶たず、依然として深刻な状況である。これらの消費者被害を救済し、被害を未然に防止するためには、相談体制の確保や消費者教育・啓発、地域での連携といった地方消費者行政の充実・強化がより一層図られなければならない。そのためには、地方消費者行政にかかる経費について、将来にわたり、継続して国が担っていくことが不可欠である。 しかしながら、国が地方消費者行政に対して措置する交付金の予算額は消費者庁創設時に比べ大幅に減額されている。さらに、以下のとおり、地方消費者行政を安定的に推進するための財源となり得ていない。
まず、平成26年に開始された地方消費者行政推進交付金は、消費生活相談員の人件費にも充てることができ、長い間地方の相談体制を下支えしていた。しかし、令和6年度末及び令和7年度末に多くの自治体で活用期限の終期を迎えることにより、消費生活相談員の減員や相談窓口開設日の減少等を余儀なくされる懸念がある。そして、従前の相談体制を維持しようとする場合、消費者教育・啓発等に充てていた予算を相談体制に関する予算に充てる必要がある。よって、消費者行政全体としての後退が不可避となる。 神奈川県下の自治体における一人あたり消費者行政予算は、自主財源でみると令和4年度で19.63円~154円と約8倍もの差が生じており、とりわけ規模の小さい自治体の厳しい財政事情が窺え、同交付金の活用ができなくなった後には、この格差がさらに広がると見込まれる。なお、平成30年に開始された地方消費者行政強化交付金は、活用メニューの制限や補助率の定め等によって活用が広まっておらず、県下でも活用している自治体は半数に満たない。活用金額も年々減少しており、消費者行政を推進する財源としては不十分である。
また、近年問題となっているのが、相談員の高齢化と、新規・若手の成り手が少ないことによる担い手不足の深刻化であり、背景には専門性が高い業種に見合う処遇が確保されていないことがある。消費生活相談の最前線で対応している消費生活相談員が安定的に業務を継続できるよう処遇の改善が必要であるとともに、それにかかる制度設計と国による予算措置が必要である。
さらに、消費者庁は、消費生活相談のデジタル化を利用したサービス向上への体制再構築を推進するとして、全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)を刷新し、消費者向けウェブサイトや相談支援システム、相談分析、情報提供システムなどシステム基盤の整備を行うという計画を進めているが、新システムの導入に必要な端末(パソコン)の設備費用や、システム利用に係る経常的経費(通信費、保守費など)も地方自治体の負担となる。国が進める消費生活相談のデジタル化にかかる予算は、本来国の責任で措置すべきである。
よって、上記のとおり要請する。
2024年7月11日
神奈川県弁護士会
会長 岩田 武司
このページの先頭へ