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会長声明・決議・意見書(2024年度)

最高裁判所大法廷旧優生保護法違憲判決を受けて『旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律』の全面的改正を求める会長声明

2024年07月11日更新

  1.   神奈川県弁護士会は、2024年(令和6年)7月3日、最高裁判所大法廷判決(戸倉三郎裁判長)を受けて、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」の全面的改正を求める。
      同判決は、旧優生保護法により強制不妊手術を受けた被害者である原告が国に対して損害賠償金の支払いを求めていたすべての事件(東京高裁、仙台高裁、大阪高裁、札幌高裁判決を原審とする5つの事件)について、「除斥期間の経過により請求権が消滅したとして国が損害賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない。」とし、国側の主張を退け、被害者である原告らの損害賠償請求を認める旨判示した。
  2.   これらの最高裁大法廷判決は、旧優生保護法の立法目的が「立法当時の社会状況をいかに勘案したとしても、正当とはいえない」こと、旧優生保護法に基づく強制手術規定が「特定の個人に対して生殖能力の喪失という重大な犠牲を求める点において、個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」こと、旧優生保護法に基づく強制手術が憲法13条、同14条1項に反すること、をそれぞれ明確に判示した。
      そのうえで同判決は、国が、旧優生保護法の規定に基づいて、「約48年もの長期間にわたり、国家の政策として、正当な理由に基づかずに特定の障害を有する者等を差別してこれらの者に重大な犠牲を求める施策を実施し」、「審査を要件とする優生手術を行う際には身体の拘束、麻酔薬施用又は欺岡等の手段を用いることも許される場合がある旨の通知を発出するなどして、優生手術を積極的に推進していた」ことを認め、「少なくとも約2万5000人もの多数の者が旧優生保護法の規定に基づいて不妊手術を受け、生殖能力の喪失という重大な被害を受けるに至った」と述べた。
      さらに同判決は、「本件規定の立法行為に係る国の責任は極めて重大」であり、被害者の被害回復のための立法措置も不十分であるとした上で、本件各事件の訴えが除斥期間の経過後に提起されたということの一事をもって、請求権が消滅したとして国が損害賠償責任を免れることは、「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない。」と述べ、これまでの除斥期間に関する最高裁判例の考え方を変更したうえで、国の責任を全面的に認めた。
  3.   本最高裁大法廷判決は、除斥期間の経過により責任を負わないという国の主張を排斥し、被害回復のための道を開いたものであり、これら司法府の役割を果たしたものとして評価できるものであるが、これは権利侵害を受けた被害者である原告らや弁護団を含めた支援者らが不断の努力を続けた結果ようやく勝ち得たものである。
      なぜ被害者ら自身が不断の努力を続けなければ被害回復を受けられなかったのか、国は、その責任が明らかであったこれらの事件において、改めて自身の責任を受けとめ、速やかに一時金支給法を全面的に改正して実施すべきである。
      すなわち、国が各地での提訴を受けてようやく制定した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)は、被害回復に関して、その手続き面でも補償内容としても不十分であり、本最高裁大法廷判決においても、同法の内容は「国の損害賠償責任を前提とすることなく一時金320万円を支給するというにとどまるものであった。」との評価をされているのである。
      繰り返しとなるが、国は、旧優生保護法の被害者(差し戻された仙台事件も含めた全国で係属中の事件の被害者、一時金支給法による不十分な被害回復しか受けられていない被害者、現在に至るまで差別・偏見を受けることを恐れるなど様々な理由で訴えや被害回復を求めることができていない被害者など、すべての被害者を含む)に対し、速やかに全面的な被害回復を行うべきである。
  4.   なお、本最高裁大法廷の審理の中では、原告ら、弁護団と最高裁との協議に基づき、公費による傍聴人向けの手話通訳者の配置、法廷内でのモニターでの判決文の投影、点字資料の作成などが行われた。
      これらは、裁判を受ける者、傍聴者への配慮がなされたものとして評価できるが、すべての国民が裁判を受ける権利(憲法32条)を有することからすれば、原告らへの公費での手話通訳者の配置など、本手続きでは認められなかった対応については、今後も引き続き、裁判所の適切な対応を求めていく必要がある。
  5.   神奈川県弁護士会は、今後も、旧優生保護法下及びその後にも続く障害に対する差別・偏見により司法に対して被害回復を求めることができなかった(現在もできないでいる)被害者の方々に対してあまねく被害回復が実現されるように尽力していくこと、並びに差別・偏見のない共生社会の実現に努めることを、改めて決意し、表明する。

以上

 

2024年7月11日

神奈川県弁護士会

会長 岩田 武司

 
 
本文ここまで。