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会長声明・決議・意見書(2024年度)

民法750条を改正して選択的夫婦別姓制度を導入することを求める総会決議

2024年06月13日更新

 

 

 民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めて夫婦同姓を義務付けている。

 この規定は、⑴人格権の一内容である「氏(姓)」を婚姻の際に変更するよう強制している点において、人格権を保障した憲法13条に違反し、⑵姓を変更したくない者は婚姻できないという不利益を甘受しなければならない点において、不合理な差別を禁止した憲法14条に違反し、⑶婚姻に両性の合意以外の要件を付している点において、婚姻が両性の合意のみに基づいて成立するものと定めた憲法24条に違反する。

 

 民法750条の規定は、夫又は妻のいずれかが他方の姓に変更しなければならないというものであり、一見すると男女間の不平等はないように思われる。しかしながら、実際には、婚姻した夫婦の約95%において女性が改姓して男性の姓に合わせるという形をとっており、いわゆる無意識バイアスや女性の社会的経済的立場の弱さから事実上女性が不利益を受けていることは明らかである。

 夫婦になろうとする者に対する同姓の強制は、改姓を望まない者に対し、本来憲法で保障されている婚姻の自由を犠牲にするか、自分の姓(アイデンティティ)を犠牲にするかという耐え難い究極の選択を迫るものである。また、婚姻により改姓した者について、旧姓時代の仕事や研究の業績、実績、成果等が同一人のものとして認識されないといった弊害が生じていることも報告されており、折しも本年6月10日、一般社団法人日本経済団体連合会からも選択的夫婦別姓制度の早期導入を求める提言が公表されている。何よりも、改姓による自己喪失感や精神的苦痛には看過できないものがあり、結婚という本来プライバシーに属する情報が、改姓により望むと望まないとにかかわらず事実上公になってしまうということの合理性も見出しがたい。

 

 国は、これまで通称名の使用を広く認めることによって、改姓に伴う不利益を回避できるとの姿勢をとってきた。しかしながら、姓は人格権の内容をなすものであり、通称名と戸籍名を併用することは、単なる利便性の問題を超えて、個人のアイデンティティの喪失につながる問題である。また、世界の主な国で日本以外に法律で夫婦同姓を強制している例は見当たらないという現状を見ると、通称名と戸籍名の併用が海外において理解されるとも思えない。

 法制審議会が選択的夫婦別姓制度を導入する「民法の一部を改正する法律案要綱」を法務大臣に答申したのは1996年であり、実現されないまま既に28年が経過している。その間、日本政府は、国連の女子差別撤廃委員会から三度にわたって、女性が婚姻前の姓を保持することを可能にする法整備を勧告されている。

 

 なお、選択的夫婦別姓制度の導入により、家族の一体性が損なわれるという意見がある。しかしながら、夫婦別姓制を採用している諸外国において、家族の一体感が弱まっているというような報告は聞かない。個人が婚姻において同姓を選択することはもとより自由ではあるが、別姓を選択したいという者の自由を国が制約するいわれはないはずである。様々な夫婦や家族の形態を許容することが、多様で寛容な活力ある社会を生み出すというべきである。

 

 当会は、2015年12月16日付けで「夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所判決を受けて家族法における差別的規定の改正を求める会長談話」を、2021年9月8日付けで、「夫婦同姓を定める民法750条を改正し、選択的夫婦別姓の導入を求める会長声明」をそれぞれ発表し、選択的夫婦別姓制度の導入を繰り返し求めてきたが、改めて国に対し、夫婦同姓を義務付ける民法750条を改正し、選択的夫婦別姓制度を導入するよう求める。

 以上のとおり決議する。 

 

2024年6月12日      

神奈川県弁護士会 通常総会

 
 
 
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