ページの先頭です。
本文へジャンプする。
サイト内共通メニューここまで。

会長声明・決議・意見書(2024年度)

永住資格取消制度の創設に反対する会長談話

2024年06月05日更新

 

 政府は、「永住者の在留資格をもって在留する者」(以下「永住者」という。)について、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)に規定する義務を履行しない場合や、故意に公租公課の支払いをしない場合、さらに、より軽い刑に処せられた場合でも在留資格の取消を可能とする同法の改正案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、本法案は、衆議院を通過して、現在、参議院で審議がされています。

 日本に生活基盤を築いた外国人市民が安心して生活していくためには安定した在留資格が必要であり、中でも厳しい審査を経て永住許可を得た外国人市民は、生活の本拠を日本におき、今後も日本で生活をしていこうとしている人たちであって、最大限、日本人と同じ市民として扱われるべき人たちです。

 ところが、本法案は、①在留カードの不携帯といった些細な入管法違反を犯した場合、②税や社会保障費等公租公課の故意の滞納をした場合、③刑期が短期であったり執行猶予がついたとしても拘禁刑が宣告された場合、日本に生活の本拠をおいている永住者の在留資格を剥奪することが出来るようにするというものです。

 しかし、軽微な入管法違反を永住資格取消事由に含めることは、達成されるべき目的とそのための手段とがつり合っておらず比例原則に違反します。軽微な違反をもっていたずらに永住者の日々の生活と人生設計から安定性を奪うことは、許されません。公租公課の未納が正されるべきものであることは、日本国籍の市民であっても、外国籍・無国籍市民であっても当然のことであり、これらに対しては日本人も含め、国籍を問わず、法律に従って督促や差押、行政罰や刑罰といったペナルティを科せば足りることです。また、極めて短期間の拘禁刑や、執行猶予がつき社会内での反省と更生が求められる場合にも永住資格を取り消してその者の生活基盤そのものを破壊し得るようにすることは、執行猶予判決等を下した裁判所の意向と判断を無視したものであると言わざるを得ず、永住者に二重の制裁を与えるものに他なりません。しかも、永住者の配偶者等など家族が永住者であることを在留資格の基礎としている者は、家族の些細な違反によって自らの在留資格も失いかねないのです。

人であることにより当然享有することのできる人権は、外国人であっても当然に享受することができます。もし、外国籍・無国籍市民に対してだけ従来のルールを超えて、入管の広範な裁量で永住資格を剥奪し、生活の基盤を軒並み奪ってしまうことができるような仕組みを作るのであれば、外国人市民に対する苛烈な差別以外の何ものでもありません。そして、近年、政府が進めてきた外国人労働者の受入れ施策及びこれに伴う共生社会の基盤整備施策にも完全に矛盾しています。

 神奈川県には本年1月1日現在で26万0163人の外国人市民が住民登録をして生活をしています。県民約35人に1人が外国人市民で構成されています。また、横浜中華街をかかえる神奈川県には、数代にわたり、永住権を持ちながら居住している方が少なくありません。

 本年5月21日、日本の開港以来170年余にわたって横浜中華街に生活の基盤をおいてきた華僑団体が本法案に反対する声明を発信しました。私たち神奈川県弁護士会も、外国籍・無国籍市民との共生と連帯をここに改めて表明します。そして、日本社会をともに築いていた人たちの地位をいたずらに不安定なものにする永住資格取消事由の拡大に強く反対するとともに、少なくとも、今回提出されている入管法改定法案のうち、22条の4第1項8号と9号及びそれに付随する諸条項の削除を強く求めます。

 

2024年6月4日

神奈川県弁護士会

会長 岩田 武司

 

【参考】入管法改正案

第二十二条の四第一項中第十号を第十二号とし、第九号を第十一号とし、第八号を第十号とし、第七号の次に次の二号を加える。

 

八 永住者の在留資格をもつて在留する者が、この法律に規定する義務を遵守せず(第十一号及び第十二号に掲げる事実に該当する場合を除く。)、又は故意に公租公課の支払をしないこと。

 

九 永住者の在留資格をもつて在留する者が、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により拘禁刑に処せられたこと。

 

 
 
本文ここまで。