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会長声明・決議・意見書(2023年度)

経済安全保障分野に秘密保護法制を拡大することに反対する会長声明

2024年03月08日更新

  1   重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案の内容と問題点

 本年1月19日の「経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議」の最終とりまとめを受け、政府は、同年2月27日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(以下、「本法案」という。)を閣議決定し、国会に提出したと報じられている。

 しかし、本法案には、以下のように重大な問題がある。

 まず、本法案は、重要経済基盤保護情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため特に秘匿する必要があるものを、重要経済安保情報として指定する。しかし、その範囲は抽象的で、極めて広範かつ不明確であり、恣意的な秘密指定の危険がある。

 本法案は、重要経済安保情報の漏えいについて5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金刑を設けると共に、機密性が特に高い情報の漏えいについては特定秘密保護法を適用して1 0年以下の拘禁刑となるとされる。しかし、上記のとおり構成要件が不明確であり、罪刑法定主義の観点からも問題がある。重要経済安保情報を取得する行為についても、5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金という重い刑罰を設けている。さらに、漏えい又は取得行為について共謀・教唆・煽動した者も処罰対象としている。ジャーナリストや市民が情報を取得しようとする場合に萎縮効果が生じ、知る権利を害するものである。

 また、特定秘密保護法の適性評価は主に公務員が対象であったが、本法案ではサプライチェーンや基幹インフラに関与する多数の民間事業者、先端的・重要なデュアルユース技術の研究開発に関与する大学・研究機関・民間事業者の研究者・技術者・実務担当者など、広範な民間人が適性評価の対象となることが想定されている。本法案の適性評価制度により、秘密を取り扱う評価対象者がセンシティブな情報を開示させられるだけでなく、その家族、同居人などまでプライバシーが侵害されるおそれがある。なお、適性評価を受けるに際して本人から同意を得るとされるが、これを拒めば、企業等が取り組む研究開発や情報保全の部署から外されたり、企業等の方針に反するものとして人事考課・給与査定等で不利益を受けたりする可能性も否定できない。

 これらの危険や不利益を避けるためには、秘密指定や適性評価が適正になされているかをチェックするための政府から独立した第三者機関の設置が必要不可欠であるが、本法案にはそれも盛り込まれていない。

 

  2   秘密保護法制をめぐる当会の立場

 当会は、2012年4月25日に「秘密保全法案に反対する会長声明」、2013年11月13 日に「特定秘密保護法案に反対する会長声明」、同年12月11日に「特定秘密保護法の強行採決に抗議する会長声明」、2014年12月11日に「『特定秘密の保護に関する法律』の施行に反対し、同法の廃止を求める会長声明」を発して、特定秘密保護法の制定に強く反対し、同法の制定後も、同法には表現の自由、知る権利、プライバシー権、罪刑法定主義、適正手続などの面から重大な問題があることを指摘して、廃止を求めてきた。

 

  3    結語

 本法案についても、表現の自由、知る権利、プライバシー権、罪刑法定主義、適正手続などの面から重大な問題があることは、特定秘密保護法と全く同様である。加えて、特定秘密保護法では特定秘密の指定状況に関する国会報告が規定されているが、本法案ではそれを規定しないこととされ、秘密が恣意的に拡大するおそれがより高いと言わざるを得ない。

 仮に、経済安全保障分野について、国民的な議論を経た上で限定的な秘密保護法制が必要とされる場合があったとしても、上記の各問題点を払拭するための抜本的な修正をし、基本的人権が侵害されることのないよう制度的保障が明文化されなければならない。そのような制度的保障のないまま、経済安全保障分野にセキュリティ・クリアランス制度を導入し、秘密保護法並みの厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することに反対する。

 当会は、本法案の成立に強く反対するものであり、今後、本法案に反対する様々な取り組みを行う決意である。

 

2024年3月7日

神奈川県弁護士会

会長 島崎 友樹

 

 
 
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