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会長声明・決議・意見書(2023年度)

最低賃金の大幅な引き上げ及び中小企業への十分な支援策を求める会長声明

2023年07月07日更新

 

当会は、神奈川地方最低賃金審議会に対し、最低賃金の大幅な引き上げを答申するよう求めるとともに、国に対し中小企業への十分な支援策を講じるよう求めます。

 

1. 昨年度、神奈川地方最低賃金審議会は、最低賃金の引き上げ額を31円とする答申を行い、神奈川県の最低賃金は1,071円となりましたが、依然不十分な金額と言わざるを得ません。 

 

2. 最低賃金法 9 条 2 項が、地域別最低賃金は地域における労働者の生計費を考慮して定めなければならないとしているところ、2022年までに研究者監修の下実施された最低生計費試算調査によれば、労働者の最低生計費については、25歳の単身若者において月額230,000円程度(租税公課込み)が必要という結果が出ています。

  しかし、神奈川県の最低賃金1,071円で労働基準法の労働時間規制の上限である1か月173.8時間働いた場合の賃金は186,140円に過ぎません。しかも、神奈川県毎月勤労統計調査によれば、神奈川県内の労働者の所定内労働時間はフルタイムにあたる一般労働者でも1か月あたり148.0時間にとどまり、この時間を最低賃1,071円で働いた場合の賃金は158,508円となり、単身若者においても必要となる月額最低生計費に70,000円以上も足りない状況にあります。

  さらに、近時の物価上昇は凄まじく、2023年4月の消費者物価指数は、前年同月比 3.5%増という高い伸び率となりました。物価の上昇による労働者の生活への影響は顕著であり、政府は今年の春闘において物価高を超えるだけの賃上げを労使双方に求めるに至りました。この流れの中で実際に大企業では概ね数%の昇給が行われましたが、未だに低賃金労働者の賃金に関しては物価高に対応したものとなっていません。低賃金労働者の生活を守るためには、最低賃金の大幅な引き上げが必要であり、政府の経済再生運営と改革の基本方針ともされています。

 

3. 地域別最低賃金を定める際の考慮要素とされる労働者の生計費について、最低賃金法 9条3項が「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性」を求めています。

  横浜地裁をはじめ複数の裁判所で2013年の生活保護基準引き下げを違法とする判決が出ていますが、その引き下げられた基準においても、神奈川県における労働時間の実態を踏まえれば、最低賃金と生活保護との逆転現象はまったく解消されていません。労働者がフルタイムで働いてもなお生活保護基準以下にとどまるような最低賃金額であってはならず、最低賃金のさらなる引き上げが必要です。

 

4. 政府の「経済財政運営と改革の基本方針2021」が、最低賃金の引き上げを「経済好循環の加速・拡大」、「賃上げを通じた経済の底上げ」の一環と位置付けているように、最低賃金の引き上げは地域経済を活性化させるものです。他方で、中小企業において最低賃金の引き上げが経営に与える影響も十分考慮しなければなりません。しかし、この点については国の中小企業支援策によって対応するべきであり、最低賃金の引き上げを抑制する理由とするべきではありません。

  現在、国は「業務改善助成金」制度等による中小企業の支援を実施していますが、その支援は未だ十分であるとは言えません。社会保険料の事業者負担分の減免制度や使い勝手の良い新たな補助金制度を創設する、最低賃金の引き上げに伴う人件費の増加や原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法整備する等、国は、最低賃金の引き上げに取り組むのに並行して、これによって影響を受ける中小企業への支援策を講じるべきです。

 

5. 以上の通り、当会は、神奈川地方最低賃金審議会に対し、最低賃金の大幅な引き上げを答申するよう求めるとともに、国に対し中小企業への十分な支援策を講じるよう求めます。

 

2023年7月6日

神奈川県弁護士会

会長 島崎 友樹

 

 
 
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