2023年05月26日更新
1 オンライン接見に関する議論の状況
刑事手続のIT化について、法務省の「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」(以下「検討会」という。)が、令和4年3月15日付けで取りまとめ報告書を作成し、その後、同年7月から、法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会において、刑事手続のIT化についての検討が進められている。
取りまとめ報告書では、検討項目として「書類の電子データ化、発受のオンライン化」、「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が挙げられており、後者の中で、「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(以下「オンライン接見」という。)が検討対象となっている。
2 オンライン接見を実現する必要性
現在においても、身体を拘束された被疑者・被告人が、弁護人と接見して適切な助言を受ける前に自白を強要されるような実態がある。対面による速やかな接見が重要であることは言うまでもないが、逮捕段階における被疑者の権利保障、特に遠隔地で身体拘束を受ける被疑者・被告人の権利保障という点から、弁護人との迅速な接見を可能とするオンライン接見を実現する必要性は極めて高い。
3 オンライン接見の導入に慎重な意見とそれに対する反論
オンライン接見については、①なりすまし、部外者の同席、録音等、被疑者・被告人の逃亡や罪証隠滅につながり得る行為を防止することは困難であること、②弁護人が、オンライン接見が可能な特定の施設(アクセスポイント)に赴いて、身分確認、不正使用され得る電子機器の持ち込みがないかの確認をするという方法も考えられるが、それを可能とする設備・体制が整った施設を全国に設けることは困難であること、③逃亡や罪証隠滅の防止、戒護への支障の防止を十分に図り得る設備・体制を確保することは容易でないこと、などの理由から、その導入に慎重な意見も見られる。
しかし、①については、あらかじめ刑事収容施設に弁護人の連絡先を登録することにより、なりすましは回避でき、また、部外者の同席等による刑事施設における規律・秩序維持が損なわれる可能性があるとの指摘については、顔認証や声認証技術を用いることにより、弁護人以外の者の存在を検知した場合に自動的に通信を遮断するなどのシステムを構築することも可能である。そうであれば、②のアクセスポイントでの接見に限定する必要もない。②③については、指摘されている各支障の防止を図るために必要な設備・体制がどのようなものであり、その確保に要する費用がいかほどであるのかに関する具体的な検討が十分になされておらず、慎重意見が前提とする「設備・体制の確保が容易でない」との事実自体に疑義がある。
そもそも、新たな設備・体制の確保に相応の困難や費用を要するとしても、それが必要なのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することであり、被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実現するための設備等も当然に国の責任において整備されるべきである。現に諸外国において、支障なくオンライン接見が行われている実情に鑑みても、指摘されている問題は解決可能である。
4 まとめ
当会は、オンラインを活用した接見交通の実現に向け、法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会にて更に具体的な議論がなされることを強く求める。
以上
2023年5月25日
神奈川県弁護士会
会長 島崎 友樹
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