2023年03月14日更新
東京高等裁判所は、昨日、袴田巌氏の第2次再審請求事件について、再審を開始するとした静岡地裁決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をした。これは、2020年(令和2年)12月22日に、最高裁判所が、第2次再審請求を棄却した2018年(平成30年)6月11日の東京高等裁判所の決定を取り消し、同裁判所に審理を差し戻していたことを受けたものである。
本件は、1966年(昭和41年)6月30日未明、静岡県清水市(現・静岡市清水区)のみそ製造会社専務宅で一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件の犯人とされた、元プロボクサーの袴田巌氏が無実であることを訴えて再審を求めている事件である。
事件から1年2か月後、第一審の公判中に、工場のみそタンクの中から、広範囲にわたり血痕が付着した5点の衣類が発見された。確定判決は、袴田氏が犯行時にこの5点の衣類を着用していたと認定し、これを袴田氏が犯人であるとする最も重要な証拠とした。
第2次再審請求において、弁護側は、同衣類に付着した血痕が袴田氏のものとは認められないとするDNA型鑑定及び事件直後から1年以上みそタンク内に漬かっていたにもかかわらず、発見された血痕に赤みが残っていたのは不自然であるとするみそ漬け実験報告書などを新証拠として提出し、これらの証拠により、5点の衣類は袴田氏のものでなく、犯行着衣でないことを明らかにしてきた。
最高裁判所は、このうち血液の色に関するみそ漬け実験報告書やこれに関する専門家意見書の証拠価値を否定した原決定の判断について、その推論過程に疑問があることから、みそ漬けされた血液の色調の変化に影響を及ぼす要因に関する専門的知見について審理を尽くすべきとしていた。
昨日の東京高等裁判所の決定は、上記最高裁判所の決定の趣旨を踏まえ、「当審で取り調べた各専門的知見から、1年以上みそ漬けされた5点の衣類の血痕の赤みが消失することが化学的機序として合理的に推測できることから、原審で提出された各みそ漬け実験報告書にその後の審理におけるみそ漬け関係の証拠を併せると、確定審で取り調べられた旧証拠と総合評価することによっても、5点の衣類が犯行着衣であり、袴田氏の着衣であることに合理的な疑いが生じ、その結果、袴田氏を本件の犯人とした確定判決の認定に合理的疑いが生じることは明らかである」と判断したものである。同決定は、科学的証拠の価値を適切に評価し、袴田氏が犯人であるとされた核となる証拠の価値を否定することで、袴田氏が犯人であるとすることにも合理的な疑いが生じることが明らかであるとして再審開始を認めたもので、高く評価することができる。
袴田氏は、現在、87歳と高齢であり、無罪判決を受けるために残された時間は多くはない。加えて、昨日の東京高等裁判所の決定は、「5点の衣類」が捜査機関の者によりねつ造された証拠である可能性が極めて高いとまで言及しているのであって、検察官が特別抗告によりこれ以上再審開始決定の確定を遅らせることは、著しく正義に反するもので、到底許容されるものではないというべきである。
当会は、一刻も早く袴田氏の再審が開始されることを求めるとともに、今後も引き続き支援していくことを表明するものである。
2023年3月14日
神奈川県弁護士会
会長 髙 岡 俊 之
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