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会長声明・決議・意見書(2022年度)

えん罪被害者の救済と適正手続の保障のため速やかな再審に関する法改正を求める決議

2023年03月08日更新

 

 

1    日本の刑事訴訟法は、日本国憲法の制定に伴い、1948年(昭和23年)に現行刑事訴訟法が制定され、人権保障と公正な裁判の実現のため、通常審については旧刑事訴訟法から全面的な改正が行われた。

 しかしながら、再審制度については、日本国憲法39条で二重の危険の禁止が規定されたことを受け、不利益再審に関する規定を削除し、再審制度がえん罪からの無辜の救済を目的とする制度であることを明確にしたほかは、職権主義的訴訟構造を基調とする戦前の旧刑事訴訟法の規定をそのまま引き継ぎ、その後も一度も改正を受けることなく、既に70年以上が経過している。

 

2    現行刑事訴訟法の再審に関する規定はわずか19か条にすぎず、その審理の在り方については、「再審の請求を受けた裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に再審の請求の理由について、事実の取調をさせ…ることができる。」と規定する第445条の1か条があるのみである。

 そのため、審理の進め方は個々の裁判体の裁量に委ねられ、進行協議や証拠開示に向けた訴訟指揮、証拠調べの実施等、手続のあらゆる局面で統一的な運用がなされておらず、積極的な訴訟指揮を行う裁判体が担当すれば審理が速やかに進み、検察官に対する証拠開示の訴訟指揮等も行われる一方で、消極的な裁判体に当たれば、進行協議期日も定められず、どのような手続状況にあるのかも不明な状態で、検察官に証拠開示が促されることもなく、再審請求から長期間が経過してから、突然棄却決定が出されるといったこともある。

 このように、えん罪からの救済のための最終手段である再審という重要な制度において、審理の方法が各裁判体に事実上一任されているという状況は、再審請求人の権利保障において、数々の深刻な問題を生じさせている。

 

3    取り分け、証拠開示に関しては、通常審については公判前整理手続に付された事件における証拠開示に関する規定が2004年(平成16年)の刑事訴訟法改正で新設され、裁判員裁判事件を中心に、法改正前に比べて格段に充実した証拠開示が実現するようになっているのに対し、再審請求審では根拠となる規定がなく、裁判所の訴訟指揮に大きく依存していることから、必要な証拠開示が行われない事件も依然として多い。

 布川事件や東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件、松橋事件等、再審請求段階ないしその準備段階で通常審当時から存在していた証拠が新たに開示され、それが再審開始に大きな影響を及ぼした事件がある一方で、弁護人が証拠開示を求めているにもかかわらず検察官がこれに応じず、裁判所も検察官に証拠開示を促すことをせずに、捜査機関の手元に再審請求人に有利な証拠があるのか否かも明確にならないまま再審請求が棄却される事件もある。

 再審手続における証拠開示については、2016年(平成28年)の刑事訴訟法改正の際の改正附則9条3項で「政府は、この法律の公布後、必要に応じ、速やかに、再審請求審における証拠開示…について検討を行うものとする。」とされたが、この点に関する法改正の目処は全く立っていない状態が続いている。

 

4    また、近時、布川事件や松橋事件、湖東事件等、即時抗告審で再審開始が認められたにもかかわらず、検察官が最高裁に特別抗告し、再審開始決定の確定が遅れ、えん罪被害の救済までの期間が長期化する事件も増えている。

 再審請求審は再審を開始するか否かを審理する手続であり、検察官としては再審が開始された場合に再審公判で確定判決を妥当とする主張・立証をすることができるのであるから、えん罪からの迅速な救済という目的を阻害してまで再審開始決定に対する検察官上訴を認める必要性は乏しい。

 諸外国では、通常審でも一般的に検察官上訴を認めていない英米法諸国はもとより、日本の旧刑事訴訟法の母法国であるドイツでも1964年の法改正で再審開始決定に対する検察官上訴を禁止するなど、大陸法諸国でも再審開始決定に対する検察官上訴を認めない立法例が多い。

 

5    このほか、現在の再審手続については、再審請求人が死亡した場合に再審請求をすることができる者が、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹に限定されており、再審請求手続が長期化する間に本人も他の請求権者も亡くなり、無辜の者が汚名をすすぐことが永遠にできなくなるおそれもあることや、国選弁護人制度がなく、再審請求人は自ら費用を負担して私選弁護人を選任するか、有志の弁護士による無償の弁護活動に期待せざるを得ないといった問題もある。

 

6    当会は、以上のような現行刑事訴訟法の再審に関する規定の不備と、それにより様々な深刻な問題が生じていることに鑑み、国に対し、

 

①    旧刑事訴訟法以来、実質的な改正が行われていない再審に関する規定を全面的

   に見直し、えん罪被害からの救済という再審制度の目的に即した手続規定を整備すること

 

②    再審請求人又は再審請求をしようとする者からの証拠開示請求の制度を設け、 

   検察官に証拠の保存及び開示の義務があることを明文で規定すること

 

③    再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止すること

 

④    再審請求権者を拡大し、再審請求中に再審請求人が死亡した場合には他の請求

   権者が手続を承継できるようにすること

 

⑤    再審請求に関し、国選弁護人制度を新設し、再審請求においても再審請求人が

   国選弁護人の援助を受けられるようにすること

 

を内容とする刑事訴訟法の改正を速やかに行うことを求める。 

 

2023年3月7日      

神奈川県弁護士会 臨時総会

 
 
 
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