2022年12月15日更新
神奈川県教育委員会(以下「県教委」といいます)は、本年10月25日の臨時会で、横浜翠嵐高校など県立夜間定時制高校6校の生徒募集を2026年度から停止することを決定しました。報道によれば、県教委はその理由として、志願者数の減少などを挙げているとされています。
すべての人には、一人の人間として成長し、自己の人格を完成させるために必要な教育を受ける権利が等しく保障されています(憲法26条、13条、14条)。この権利は、子どもはもちろん様々な事情で学ぶ機会が得られなかった人たちにとっても重要な基本的人権であり、最大限に保障されなければなりません。
県教委も認めているとおり、働きながら学ぶ青少年だけでなく、多様な入学動機や学習履歴を持つ人々が、これまで夜間定時制高校で就学してきました 。具体的には、経済的困難を抱えた生徒、小中学校で十分に登校できなかった生徒、高校を退学した経験のある生徒、外国籍や外国にルーツのある「外国につながる生徒」など様々な困難を抱えた生徒が就学しており、夜間定時制高校は、これらの生徒にとって貴重な学びのセーフティネットの役割を果たしてきました。
現在県内には18校の県立夜間定時制高校があるところ、今回の決定はその3分の1にもあたる6校という広範囲で生徒募集を停止するものであり、特に夜間高校を希望する生徒の中には、日中働いていたり、経済的困難を抱えた者もいることに鑑みると、これらの生徒にとっては、実質的に学ぶ機会が制限されることになりかねません。
また、横浜翠嵐高校については、外国につながる生徒への手厚い指導を長年続けてきた実績を持つこと、現在約110名を超える生徒が在籍することなどから、その生徒募集停止に特に多くの反対意見が寄せられています。これに対して県教委は、神奈川工業高校定時制に普通科を新設して対応する計画を示していますが、横浜翠嵐高校における外国につながる生徒への支援は約20年前からの蓄積であると言われているところ、横浜翠嵐高校を支えてきた関係者らとの事前の話し合いはなされておらず、普通科を新設したばかりの神奈川工業高校において、横浜翠嵐高校と同等の支援を実現することは困難であると指摘されています。
県教委による県立高校改革実施計画においても、生徒一人ひとりのニーズに応じた学習内容や学習環境を提供すること、きめ細かな学習指導や、支援を必要とする生徒のための相談体制、社会的・職業的な自立に向けての支援体制の一層の充実に取り組むとされていますが、そのためにはこれまで夜間定時制高校を支えてきた関係者らの意向を踏まえ、丁寧に進めることが必要です。
したがって、当会は、県教委に対し、困難な状況の中で高校での学習を希望する人々の教育を受ける権利が等しく十分に保障されるよう、横浜翠嵐高校をはじめとする県立の夜間定時制高校6校の生徒募集停止の見直しを含めて慎重に検討するよう求めます。
以上
2022年12月14日
神奈川県弁護士会
会長 髙岡 俊之
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