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会長声明・決議・意見書(2022年度)

「大崎事件」再審請求棄却決定に関する会長声明

2022年08月10日更新

本年6月22日,鹿児島地方裁判所は,いわゆる大崎事件の第4次再審請求事件につき,再審請求を棄却する決定をした(以下「本決定」という。)。

大崎事件は,1979年(昭和54年)10月12日,鹿児島県曽於郡大崎町において,被害者の義姉である原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)が,アヤ子氏の元夫,義弟の3名で共謀し,酔っ払って動けない「被害者」を同日午後11時頃に殺害して,翌朝4時頃義弟の息子を含めた4名で被害者宅の牛小屋の堆肥の中に埋めた,とされた事件である。なお,「被害者」は殺害されたとされる日の午後5時半頃,大崎町の農道脇の側溝に転落し,前後不覚で約2時間半動けないまま,道路上に横たわっていたこと,同日午後9時頃,近隣住民2名によって自宅に運ばれたという事情が存在している。

アヤ子氏は,逮捕時から一貫して無罪を主張し続けたが,共犯者とされた3名の自白と義弟の妻の供述によって,有罪判決を受け,控訴,上告を行ったものの覆らず,服役を余儀なくされた。

アヤ子氏は,出所後,これまで3度の再審請求を行い,これまで3度の再審開始決定を得てきた。しかしながら,2019年(令和元年)6月25日,最高裁判所第一小法廷によって,弁護団の提出した法医学鑑定は,「被害者」の死亡時期を示すものではないとして開始決定が取り消され,いまだ再審無罪への扉が閉ざされている。

弁護団は,「被害者」が農道脇の側溝に転落し,前後不覚で2時間ほど道路上に横たわっており,午後9時頃,近隣住民2名によって自宅に運ばれた,という事情に着目し,救命救急医に鑑定を依頼し,その結果,「被害者」には,農道脇への転落で頸部に重篤なダメージが生じ,その後の自宅への搬送行為によって,頸部にさらなるダメージが加わった結果,自宅到着時には死亡していたとの鑑定結果を得た。そこで弁護団は,この医学鑑定書と,近隣住民2名の供述を分析した供述鑑定書を新証拠として,本件がそもそも殺人事件ではなく,被害者が事故死であったことを明らかにするべく,第4次再審請求を行った。

本決定は,救命救急医の医学鑑定書に基づき,被害者が転落時や自宅搬送時に頸部に重篤な怪我を負ったことを可能性としては認めながらも,その可能性は,「被害者」の死因として確定審当時の法医学鑑定が推定する可能性とは別の可能性を指摘するという意味があるにすぎず,確定判決における頸部圧迫による窒息死との認定には合理的な疑いを生じさせるとはいえないとし,また供述鑑定についても,供述の信用性を適切に判断するための視点を提供する役割を有するにとどまり,近隣住民2名の供述の信用性を減殺するものではないとして,新証拠の明白性(刑事訴訟法435条6号)を適切に判断せずに,明白性を否定して再審請求を棄却した。

本決定は,新証拠である医学鑑定や供述鑑定の証明力を限定的にしか評価していないほか,「疑わしいときは被告人の利益に」判断すべきであり,旧証拠の証明力を減殺するのであれば新旧全証拠の総合評価を行うべきであるとの白鳥・財田川決定にも違反するもので,到底是認できない。

現在,本決定については,弁護側からの即時抗告を受けた福岡高等裁判所宮崎支部での審理が開始されている。アヤ子氏は95歳の高齢であり,事件発生からは43年が経過しようとしている。当会は,「疑わしいときは被告人の利益に」との刑事裁判の原則が貫かれた判断がなされ,すみやかに再審開始の判断がなされることを求める。

 

2022年8月9日

神奈川県弁護士会

会長 髙岡 俊之

 

 
 
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