ページの先頭です。
本文へジャンプする。
サイト内共通メニューここまで。

会長声明・決議・意見書(2022年度)

死刑執行に抗議する会長声明

2022年08月10日更新

  1.  本年7月26日、東京拘置所において、いわゆる秋葉原無差別殺傷事件で死刑が確定していた死刑囚に対する死刑が執行された。
  2.  この事件については、犯行の真の動機や理由についてはついに解明に至らなかったものの、背景には社会的孤立や経済的困窮があったとも言われている。
     死刑執行に際しては、凶悪犯罪が跡を絶たず、死刑による抑止力が必要であると強調されるのが通例であり、今回の死刑執行でも凶悪犯罪の抑止の必要性が強調されたが、自らも死ぬつもりで殺人を実行する、いわゆる拡大自殺や間接自殺と呼ばれるような犯罪にあっては、死刑の存在がむしろ誘因の一つとなっているとも言えるのであって、死刑の抑止力が働くとは考えにくい。
     秋葉原無差別殺傷事件の発生から既に14年が経過したが、その間、孤立や困窮を解消するための有効な手立てが講じられてきたとは言い難く、そのような状況下での死刑執行は、凶悪犯罪対策を含む刑事政策や、「最良の刑事政策」とも言われる社会政策の機能不全から国民の目をそらすために行われたと言っても過言ではない。
  3.  死刑執行後の記者会見において、古川禎久法務大臣は、国民世論の多数が「極めて悪質・凶悪な犯罪については死刑もやむを得ない」と考えており、死刑を廃止することは適当でないと考えていると述べ、その根拠として約80%が「死刑もやむを得ない」と答えた平成26年11月及び令和元年11月実施の内閣府世論調査の結果を挙げた。
     しかしながら、これらの世論調査については、質問方法等に問題があるとの指摘がなされており、追加質問項目を加えた分析では、死刑の代替刑等の条件が整えば死刑を廃止してもよいと考える国民の割合は半数近くにまで増加するとの結果も出ている。
     また、同記者会見で古川法務大臣は、死刑に関する情報の開示がなく、死刑に関する国民的議論も進んでいないことを指摘した質問に対しては、死刑に関する情報開示の問題を個々の死刑確定者に対する処遇状況に関する情報開示の問題に置き換えた上で、「死刑確定者の心情の安定を害しないよう配慮することが必要だ」などと述べるのみで、質問に対して正面から答えることを回避しており、国は、国民に対して死刑に関し十分な情報を開示し、その議論を促進することに極めて消極的な態度を取っていると言わざるを得ない。
     このように、国民に十分な情報を与えず、議論を深める条件も整えないまま、世論調査の結果を表層的に捉えて「国民世論の多数が支持している」として死刑の執行を漫然と継続するのは、死刑制度が持つ問題の深刻さに鑑みて、極めて不当なものと言うほかない。
  4.  死刑をめぐる国際的な潮流を見ても、2021年末の時点で死刑を廃止した国(事実上の死刑廃止国を含む。)は144か国に上っており、いわゆる先進民主主義諸国の中で死刑を存置しているのは、アメリカと日本のみとなっている。そして、そのアメリカも、州レベルでは死刑を廃止ないし事実上廃止した州が多数を占めており、連邦レベルでも2021年に死刑の執行が停止されている。
     死刑を存置している国は、中国やイラン、エジプト、サウジアラビア等、世界の中で少数派となっており、既に死刑を廃止している諸外国との間では、犯罪人の引渡しをはじめ、日本が死刑を存置していることで外交的な課題の解決が阻害されているという事態も起こっている。
     死刑を存置していることにより、多数の死刑廃止国から我が国がどのように見られているか、また、現実的にどのような問題が生じているのかについても、国民に十分な情報が届いているとは言い難い状況にあるのであって、この点でも、「国民世論の多数」という言葉に寄り掛かって死刑執行を続けるのは不誠実であると言わざるを得ない。
  5.  当会は、現在も再審請求が続いている袴田事件等の確定死刑囚による再審請求事件が象徴するように、死刑制度には誤判による死刑という究極的な問題が潜んでいることなどに鑑み、2021年3月に開催された総会で「死刑執行の停止及び死刑制度の廃止に向けた取り組みを求める決議」を採択するなど、死刑廃止に向けた取組みを続けている。
     今回の死刑執行は、到底容認できるものではなく、これに強く抗議するとともに、国に対し、死刑の執行を直ちに停止し、死刑制度に関する国民への情報開示を積極的に行うとともに、国民の議論を深め、死刑廃止に向けた取組みを進めることを強く求める。

 

2022年8月9日

神奈川県弁護士会

会長 髙岡 俊之

 

 
 
本文ここまで。