2022年07月08日更新
当会は、国に対し、中小企業への十分な支援策を講じるよう求めるとともに、神奈川地方最低賃金審議会に対し、最低賃金の大幅な引き上げを答申するよう求めます。
昨年度は、神奈川地方最低賃金審議会は、最低賃金の引き上げ額を28円とする答申を行い、神奈川県の最低賃金は1,040円(引き上げ額28円)となりましたが、依然不十分な金額と言わざるを得ません。
最低賃金法9条2項が、地域別最低賃金は地域における労働者の生計費を考慮して定めなければならないとしているところ、研究者監修の下実施された最低生計費試算調査によれば、労働者の最低生計費については、25歳の単身若者において月額230,000円程度(租税公課込み)が必要という結果が出ています。しかし、神奈川県の最低賃金1,040円で厚労省試算が用いる労働基準法の労働時間規制の上限である1か月173.8時間働いた場合の賃金は180,752円に過ぎません。しかも、神奈川県毎月勤労統計調査によれば、神奈川県内の労働者の所定内労働時間はフルタイムにあたる一般労働者でも1か月あたり147.1時間にとどまり、この時間を最低賃金1,040円で働いた場合の賃金は152,984円となり、単身若者において必要となる月額最低生計費に80,000円近く足りない状況にあります。 しかも、2022年4月及び5月の消費者物価指数は、いずれも前年同月比2.5%増という高い伸び率となりました。低賃金労働者の生活を守るためにも最低賃金の大幅な引き上げが必要です。
また、地域別最低賃金を定める際の考慮要素とされる労働者の生計費について、最低賃金法9条3項が「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性」を求めているにもかかわらず、実質的には、未だ最低賃金と生活保護との逆転現象が解消されていません。例えば、25歳の単身若者が横浜市で生活保護を利用した場合、その額は128,420円となりその全額が可処分所得となるのに対し、生活保護を利用していない世帯では賃金から税・社会保険料が控除されるため、147.1時間を最低賃金1,040円で働いた場合の可処分所得は124,906円となります。このように最低賃金1,040円では、神奈川県における労働時間の実態を踏まえれば、なお最低賃金と生活保護との逆転現象は解消されていないのです。労働者が働いても生活保護基準以下にとどまるような最低賃金額であってはならず、最低賃金のさらなる引き上げが必要です。
諸外国に目を転じると、例えば、フランスでは2021年1月に10.25ユーロ(約1,423円)に、さらに同年10月から10.48ユーロ(約1,455円)に引き上げられました。ドイツでも2022年1月に9.82ユーロ(約1,363円)に引き上げられ、同年7月からは10.45ユーロ(約1,451円)に引き上げられました。さらに、同年10月からは12ユーロ(約1,666円)に引き上げることが国会で承認されています(1ユーロ138.89円(2022年7月6日時点のレート)で換算)。イギリスでも23歳以上の労働者の最低賃金が2022年4月に9.5ポンド(約1,537円)に引き上げられました(1ポンド161.85円(同上)で換算)。諸外国と比較すると、最低賃金1,040円が低廉であることは明らかです。コロナ禍においても、多くの国々で最低賃金の引き上げが実現されており、日本でも最低賃金のさらなる引き上げが実現されなければなりません。
もちろん、最低賃金の引き上げが中小企業経営に与える影響も考慮しなければなりませんが、この点については社会保険料の事業者負担分の減免制度や使い勝手のよい新たな補助金制度を創設する等、国の中小企業支援策によって対応するべきであり、最低賃金の引き上げを抑制する理由とはなりません。国は、最低賃金の引き上げによって影響を受ける中小企業支援策を講じるべきです。
以上の通り、当会は、国に対し、中小企業への十分な支援策を講じるよう求めるとともに、神奈川地方最低賃金審議会に対し、最低賃金の大幅な引き上げを答申するよう求めます。
2022年7月7日
神奈川県弁護士会
会長 髙岡 俊之
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