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会長声明・決議・意見書(2021年度)

改正少年法につき、同法の目的・理念に合致した運用を求める会長声明

2021年06月07日更新

本年5月21日、「少年法等の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が参議院で可決され、成立しました。当会は、改正法施行後も、引き続き18歳及び19歳の者に対し、少年法1条の「健全育成」という目的・理念に合致した運用がなされるよう求めます。

  1.  改正法では、民法上は成年となる18歳及び19歳の者についても、これまでどおり少年法の適用対象とし、同法1条の定める「健全育成」の目的・理念を妥当させることとなりました。そして、18歳及び19歳の者についても、全ての事件を家庭裁判所に送致し、家裁調査官の調査や少年鑑別所の鑑別を実施した上で、保護処分を行うという従前の手続きは維持されます。
  2.  この改正法成立に至る経緯の中では、当初、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げるという方針が有力であったものの、当会がこれまでの意見表明(2018年9月13日「少年法適用年齢引き下げに対する意見書」、2021年1月28日「少年法適用年齢に関する法制審議会答申に対する会長声明」等参照)で述べてきたとおり、少年事件は大きく減少しており、少年法が少年の立ち直りや再犯防止に有効に機能してきたことが改めて評価され、現行少年法の基本的枠組みが維持されたものです。この点は、少年司法や少年矯正に関わる実務家をはじめとする各関係者及び団体等による積極的な取組みの成果といえ、評価できます。
  3.  もっとも、改正法では、18歳及び19歳の者について「特定少年」として特例を定め、17歳以下の者とは異なる取扱いをすることとしました。その中でも、①いわゆる原則逆送事件の対象を拡大した点、②検察官送致後に公判請求された場合には本人推知報道制限の対象外とした点については、少年法の「健全育成」理念とそぐわないものであり、問題のある改正であると言わざるを得ません。
  4.  特に、いわゆる原則逆送事件の対象事件の拡大については、その問題が大きいため、逆送するかどうかは慎重に判断される必要があります。
     すなわち、改正法では、現行の「故意の犯罪により被害者を死亡させた事件」から「短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件」にまで拡大したことにより、強盗罪など、犯罪の態様や結果などの「犯情」の幅が広い犯罪も対象とされることになりました。
     しかし、現行少年法の枠組みの中では、強盗罪のような犯情の幅が広い犯罪については、犯情の具体的内容や非行に至った経緯、少年の資質の問題や保護環境など、様々な考慮要素から、当該少年の健全育成に最も資する保護処分が付されていたのであり、少年の立ち直りや再犯防止の観点からも有効に機能していました。改正法の下で、こうした個々の事件における様々な要素を十分に考慮することなく逆送することとなれば、一度非行を犯した少年が十分な矯正教育を受けないまま社会復帰し、再び犯罪に及ぶケースが増加するおそれがあります。このような事態はかえって少年法1条の趣旨を損なうものです。
     したがって、18歳及び19歳の者についても少年法1条の「健全育成」の目的・理念が妥当すること、新たに原則逆送の対象となる罪には犯情が軽微な事件も多く存在し、国会の附帯決議においても犯情の軽重及び要保護性を十分に考慮する運用が行われるよう配慮が求められていることを踏まえ、改正法の下でも、逆送するかどうかは慎重に判断されなければなりません。
  5.  また、18歳及び19歳の者が犯した事件が逆送となり公判請求された場合には、本人を推知させる報道(実名報道など)の禁止が解除されますが、この点も国会の附帯決議にあるとおり、報道内容がインターネット上に掲載されれば半永久的に閲覧可能となることや、刑事裁判では再び家庭裁判所に移送され保護処分となる可能性があることも踏まえ、少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう、関係者には十分な配慮が求められます。
  6.  当会としては、今回の法改正により、18歳及び19歳の者について少年法1条の目的・理念に合致した運用が行われるよう、家庭裁判所をはじめとした各機関に求めていくとともに、当会会員による弁護人活動、付添人活動のより一層の充実を図る所存です。

 

2021年6月4日

神奈川県弁護士会

会長 二川 裕之

 

 
 
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