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会長声明・決議・意見書(2021年度)

重要土地等調査規制法案に反対し、廃案を求める会長声明

2021年06月04日更新

「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(重要土地等調査規制法案)が衆議院で可決され、今国会で成立する可能性が高まっています。しかしながら、本法案は、以下のとおり、人権侵害のおそれが強いことから、当会は、本法案に反対し、廃案を求めます。

  1.  本法案は、防衛施設等の「重要施設」や「国境離島等」の機能を阻害する行為を防止する目的で、内閣総理大臣が、「重要施設」の敷地の周囲おおむね1000メートルの区域等を「注視区域」や「特別注視区域」として指定し、これら区域内の土地及び建物(土地等)の利用状況を調査し、土地等の利用者が当該土地等を重要施設等の機能を阻害する行為の用に供し、又は供する明らかなおそれがあると認めたときは、土地等の利用者に対し、利用中止等の勧告や命令を出し、調査や命令等に応じない者に刑罰を科するとするものです。
  2.  神奈川県には、厚木基地、横須賀基地をはじめとする自衛隊基地、米軍基地が多数あり、これら施設は市街地に近接することから、市民生活の場の多くが「注視区域」等に指定されかねません。しかも、「重要施設」には政令で定める「生活関連施設」も含まれることから、「注視区域」等が政府の判断でいかようにも拡大されるおそれがあり、本法案は、多くの県民の生活に影響を及ぼすおそれが極めて高いといえます。
  3.  本法案によれば、内閣総理大臣は、関係行政機関や地方公共団体の長などから、土地等の利用者その他の関係者に関し「政令で定める」情報を収集し、土地等の利用者その他の関係者に対し、当該土地等の利用に関する報告や資料の提出を求めることができるとされています。しかし、そうすると調査内容や調査対象が広汎となり、機能を阻害する行為の判断のためには、関係者の職歴や交友関係、思想信条等にまで調査が拡大されるおそれがあり、憲法が保障する個人の尊厳やプライバシーの権利(憲法13条)、思想良心の自由(憲法19条)を侵害するおそれが大きいと言わざるをえません。
     また、市民に対し刑罰の制裁を科してこれらの情報の提供を強制することは、例えば、航空機騒音被害の解消を求めてなされる基地監視活動などの市民の活動を委縮させる効果をもたらすものであり、表現の自由(憲法21条)を侵害するおそれもあります。
     さらに、内閣総理大臣は、施設等の機能阻害行為ないしそのおそれがあると認めれば、土地等の利用者に対して利用の中止などを勧告、命令できるとされているところ、かかる措置は土地等の所有者等の財産権(憲法29条)に対する制約となります。
  4.  そして、本法案は、土地等の利用者その他の関係者が当該土地等の利用に関し報告や資料の提出要求に応じないなどの場合、土地等の利用者が当該土地等の利用中止等の命令に従わない場合、特別注視区域における所有権移転契約等の事前の届出を行わないなどの場合に刑罰を科すことを認めています。
     しかしながら、これらの前提となる施設等機能阻害行為の具体的内容は政府が定める基本方針により決定されるとされ、報告や資料の提出の対象や提出義務を負う「土地等の利用者その他の関係者」の範囲は明確ではなく、さらに、契約締結等の際に届出すべき事項は内閣府令に委ねられております。これは、罪刑法定主義や適正手続の保障(憲法31条)に違反すると言わざるを得ません。
  5.  このように、本法案は、人権侵害のおそれが極めて強いものであり、多くの基地を抱える神奈川県において、人権侵害の危険は一層深刻です。
     当会は、本法案に反対し、本法案を廃案とするよう求めます。

 

2021年6月4日

神奈川県弁護士会 

会長 二川 裕之

 

 
 
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