2021年02月18日更新
消費者庁は、2021年(令和3年)1月14日に開催された内閣府消費者委員会第335回消費者委員会において、「特定商取引に関する法律(以下、「特商法」とする。)」及び「特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下、「預託法」とする。)」における申込書面、概要書面、契約書面について、消費者の承諾を得た場合は電磁的方法で交付することを可能とするよう次期通常国会の特商法及び預託法の改正法案で改正を行う予定であると述べている。
これまでの議論では、2020年(令和2年)12月22日開催の第9回規制改革推進会議で決定された「当面の規制改革の実施事項」において、特商法の特定継続的役務提供に規定する概要書面と契約書面について「消費者の利益の確保の方法や電磁的方法により送付した場合のクーリング・オフ期間の起算点等を整理した上で、電磁的方法による提供を可能とするよう、改正措置を講じる。」とされるにとどまっていた。
ところが、消費者庁は、上記のとおり、特定継続的役務提供だけでなく、訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入、連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引を含む特商法の各取引類型、さらに預託法においても、消費者の承諾を得た場合に電磁的方法による書面交付を認める法改正を予定している。
しかし規制改革推進会議は、国民生活の向上に資する規制・制度改革として書面のデジタル化を推進するとしているのであるから、消費者庁はまずもって、消費者がオンラインで情報を収集して申し込み、契約するというオンライン完結型の類型はどのような契約類型であり、どのような論点があるのかを整理し洗い出すことが先決である。論点整理すらできていない現段階で、書面交付の電子化を検討するのは拙速である。
そもそも訪問販売を始めとする対面型の取引においては、その場で申込書面や概要書面、あるいは契約書面を交付して説明すべきであって、わざわざ電磁化する理由はない。これらの書面は、不意打ちの勧誘や利益を強調する勧誘、提供される役務内容に関する誤認を防止する等の立法事実や特質から、交付を法定しているものであり、書面を直接交付することによる契約内容の警告機能やクーリング・オフの告知機能は、消費者保護にとって極めて重要である。
さらに訪問販売においては、不意打ちやつけ込みなどが懸念されるのであり、そのような不当勧誘下で消費者が有効な承諾ができるのか疑問である。また、訪問販売等により高齢者や20歳になったばかりの若年者が被害にあった場合、従来の紙の書面交付であれば、家族や見守りをする支援者などの第三者が契約書面を発見して被害回復を図る契機となり得た。しかし電磁的な方法による書面交付が認められてしまうと、第三者が契約締結の事実を知ることが困難になり、第三者による被害救済が困難になるおそれがある。
このように、不当勧誘防止のために契約解消のための各種ルールを整備してきた経緯からすれば、「書面の電磁化は消費者の承諾を要件としているので消費者保護に欠けるところはない」との消費者庁の考え方は成り立たない。預託法についても、同様である。
確かに、参入規制がある金融商品取引法等の他の法律において、承諾がある場合に電磁化を認めている例はあるが、参入規制がなく行為規制に止まる特商法や預託法をこれと同一視することはできない。
以上のとおり、拙速な書面電子化の法改正は消費者保護の観点から重大な悪影響があると考えられるので、反対である。むしろ、多発している特商法及び預託法の分野における消費者被害防止のための抜本的対応を進めるべきである。
以上
2021年2月17日
神奈川県弁護士会
会長 剱持 京助
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