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会長声明・決議・意見書(2020年度)

少年法適用年齢に関する法制審議会答申に対する会長声明

2021年01月29日更新

2020年10月29日、法務大臣から少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることの是非及び非行少年を含む犯罪者に対する刑事政策措置について諮問されていた法制審議会は、約3年半にわたる議論を経て法務大臣に対して答申した(以下「本答申」という)。

少年法の適用年齢については、2015年2月、神奈川県川崎市の多摩川河川敷において当時中学1年生の男子生徒が殺害される事件が起こったことを受け、「少年事件が凶悪化かつ増加している」として少年法の厳罰化を求める世論が高まる中で、適用年齢の引き下げを求める声も多く聞かれた。しかし、当会はこれまでも、2015年6月11日付会長声明、及び2018年9月13日付意見書により、実際には少年犯罪は減少を続けており、現行少年法が有効に機能していることなどから、少年法の適用年齢引き下げに反対する旨を表明してきた。本声明は、本答申を受けて、改めて当会としての意見を表明するものである。

本答申では、罪を犯した18歳及び19歳の者について、全件を家庭裁判所に送致して調査官による調査などを踏まえて処分が決定される枠組み(全件家裁送致)が維持された。この全件家裁送致の枠組みは、有効に機能してきた現行少年法の要といえるものであり、この枠組みを採用すべきとした答申の内容は評価できる。

他方、本答申では、18歳及び19歳の「位置づけ及び呼称」については今後の立法プロセスに委ねるとされている。しかし、20歳未満を対象とする現行少年法は有効に機能しており、少年犯罪は減少を続けているのであるから、2020年7月30日に公表された「少年法の在り方についての与党PT合意」で明記されているように、18歳及び19歳をこれまでと同様に少年法の適用対象とするのが相当であり、この点は今後の立法過程で明確にされるべきである。

さらに、本答申においては、18歳及び19歳の者について、①いわゆる原則逆送事件の対象を拡大する、②検察官送致後起訴された場合には本人推知報道制限の対象外とする、③ぐ犯の対象からはずす、などとされている。

①いわゆる原則逆送事件の対象事件を、現行の故意の犯罪により被害者が死亡した事件から短期1年以上の刑にあたる罪にまで拡大した場合、強盗罪など、犯罪の態様や結果などの「犯情」の幅が広い犯罪も対象とされることになる。このような犯罪についても刑事処分が原則とされれば、これまで犯行の動機や態様だけでなく、少年の要保護性も踏まえて、それぞれの少年について個別具体的に処分を決定して教育的手当がなされていたものが、そのような手当がなされないままとなり、少年本人の更生に資さない上に、教育的手当の効果として再非行が減少しているという現実にもそぐわないこととなる。

②現行少年法が定める本人推知報道の禁止規定は、少年や家族のプライバシーを保護し少年の更生を図ろうとするもので、インターネットやSNSの普及により瞬時にして情報が拡散する現代においては特に重要な意義を有している。これまでも、少年による重大犯罪が発生した際には、インターネットやSNS上で少年の実名等が拡散させる事例が多く見られ、少年の更生の障害となってきた。事件の起訴によりその禁止が解除されると、対象者に回復し難いダメージを与えてその社会復帰や立ち直りを阻害しかねず、過剰な社会的制裁を容認することにもなりかねない。

③ぐ犯の対象からはずすという点については、まだ犯罪には至っていなくても今後犯罪に及ぶ可能性が高い場合、現行少年法はぐ犯として対象少年を保護の対象としている。例えば親からの虐待を受けて家庭での居場所を失い、家出生活を繰り返して反社会的集団とのつながりを強めている少年や、家出生活の中で性風俗業に関係している女子少年などは、18歳を過ぎると児童福祉法上の支援の対象となり得ないため、少年法がぐ犯として保護の対象とすることで「セーフティネット」の役割を果たしてきた。ぐ犯少年として保護の対象とされて初めて立ち直りの機会を得たという者も少なくなく、ぐ犯の対象からはずせばこのような者の立ち直りの機会を奪うことになる。

以上のとおり、本答申は、全件家裁送致を維持する点では評価できるものの、多くの許容できない問題点を含むものであるから、当会はこれに反対する。

18歳及び19歳の者についても、従来どおり少年法の適用対象とした上で、現行少年法と同様の制度が維持されるべきである。

 

2021年1月28日

神奈川県弁護士会

会 長 剱 持 京 助

 

 
 
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