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会長声明・決議・意見書(2020年度)

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言に伴う申入書(横浜家庭裁判所宛)

2020年05月01日更新

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言に伴う申入書

2020年5月1日

横浜家庭裁判所 御中

神奈川県弁護士会

    会 長  剱 持 京 助

第1 申入れの趣旨

貴庁に対し、新型コロナウイルス感染拡大防止を理由として取り消した調停・審判・訴訟事件の期日について、早急に次回期日を指定すること、及び今後の期日の一方的な取消をせず、審理方法の工夫により、感染拡大に対する防止策をとりつつ、審理を遅滞させない施策を取るように求めます。

第2 申入れの理由

  1.  2020年(令和2年)4月7日、日本政府により、新型コロナウイルス感染症を対象とする新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、神奈川県を含む都府県を対象に緊急事態宣言が発令されました。これを受け、神奈川県内の裁判所においては、多くの民事事件や家事事件について、裁判所の判断により期日指定が取り消されました。
     このような裁判所の対応は、来庁する人数を制限し、外出自粛を要請して新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐという政府の方針に沿うものと考えられ、やむを得ない面があることは理解できます。しかしながら、令和2年4月16日に変更された新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針においても、「政府としては、緊急事態を宣言しても、社会・経済機能への影響を最小限に留め」る方針であると明言しています。よって、これ以上の審理の遅延は、明らかに政府の方針に反していると言わざるを得ません。
  2.  裁判所の手続を利用するに至った国民の多くは、巻き込まれた紛争の解決や、権利の回復を期待している人々です。これらの期待にできる限り迅速に応えることが、紛争解決機関としての裁判所の責務であることは言うまでもなく、紛争が長期間することで当事者が被る不利益は甚大です。
     例えば夫婦間の事件では、別居中は公的な給付の対象外とされるだけでなく、保育料や就学支援金の算定、公的住居の申し込み等において夫婦の合計収入で判断されることから、別居が長期化することで一人親家庭以上に困窮する場合が少なくありません。
     面会交流事件においては、親子の交流が長期間断絶すれば、特に子が幼い場合、交流の再開に支障をきたすことが懸念されます。遺産分割事件においては、当事者が変更していたずらに紛争が複雑化する可能性もあります。後見人や財産管理人の選任が必要な事件においても、選任が遅れることで財産が散逸し、回復が困難な被害が発生する恐れがあります。
     このように期日が遅滞することによって当事者が被る不利益は多岐にわたり、その影響はいずれも看過できません。
  3.  そこで、裁判所におかれましては、国民の裁判を受ける権利(憲法32条)を全うさせるためにも、審理方法を工夫して、新型コロナウイルス感染拡大の防止策を取りつつ、取り消した期日の速やかな再開及び今後の審理期日の実現を申し入れます。
     特に調停事件においては、関係者が複数人に及ぶことから、緊急事態宣言前から、次回期日が2か月以上先になることが頻発していました。このような状況に鑑みれば、今後緊急事態宣言が継続された場合でも、漫然と期日指定を放置せず、候補日の調整を開始する等、再開に向けた準備を速やかに始めていただく必要があります。
     もっとも、緊急事態宣言が解除されても、従前のように混雑した待合室に当事者を長時間待機させることが不適切であることは言うまでもありません。したがって、調停や訴訟における電話会議の利用や調停に代わる審判の活用、人事訴訟における書面による弁論準備手続の実施等、当事者が出頭せずに審理を行う方法を模索していただく必要があります。
  4.  ところで、既にWeb会議システムを利用した裁判のIT化が始まっていますが、対象は地方裁判所に限定されています。しかしDVがある事件等では、当事者が接触しないよう毎回関係者が神経をすり減らしています。かといって音声のみの電話会議では、当事者の様子がよくわからず、進行に支障をきたしてきました。こうしたことは、調停や人事訴訟にWeb会議システムを導入することで大幅に改善することができます。よって家庭裁判所においても、これを契機に可及的速やかにWeb会議システムを導入されることを期待します。
  5.  以上のとおり、社会的影響の大きさや国民の権利保護の観点から、審理方法の工夫等により、新型コロナウイルス感染拡大防止と両立できる施策を取るよう求める次第です。

以上

 
 
本文ここまで。