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自衛隊の中東海域への派遣の中止を求める会長声明
会長声明・決議・意見書(2019年度)
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自衛隊の中東海域への派遣の中止を求める会長声明
2020年03月27日更新
政府は、2019年12月27日、「日本関係船舶の安全確保に必要な情報を収集」するため、中東地域において、護衛艦1隻及び固定翼哨戒機P-3Cによる情報収集活動を実施することを閣議決定(以下「本件閣議決定」という。)し、2020年1月10日、防衛大臣は派遣命令(以下「本件派遣命令」という。)を発し、同月11日、那覇基地からP-3Cが、同年2月2日には、横須賀基地から護衛艦たかなみが、それぞれ中東地域へと出発し、同月26日、護衛艦たかなみは現地で情報収集活動を開始した。2018年5月に米国がイラン核合意を離脱した後、ホルムズ海峡を通過するタンカーに対する攻撃等が発生していることから、日本関係船舶の安全確保のための取組であるとされる。
この情報収集活動は、防衛省の所掌事務を定めた防衛省設置法4条1項18号の「調査及び研究」との規定に基づき実施する、とされる。
しかし同法は、防衛省の設置、組織、所掌事務等を定める組織規範であり、同法5条は、自衛隊の任務、行動及び権限等は、自衛隊法の定めるところによる旨規定する。
その趣旨は、戦争を放棄し、戦力不保持・交戦権否認を定めて、平和的生存権を保障した憲法前文及び9条の下で、自衛隊の行動及び権限を自衛隊法に定められたものに限定し、それ以外のものは認めないこととしてその活動を規制するところにある。
自衛隊法は、調査研究についても規定するが(25条、26条、27条及び27条の2)、これらは自衛隊の機関である学校や病院等が行う調査研究についての規定であって、自衛隊の部隊の中東海域における情報収集のような活動の根拠たりうる規定はない。他に自衛隊法に本件派遣命令の根拠となる規定はなく、防衛省設置法の所掌事務の規定を根拠にかかる派遣命令が許容されるとすれば、自衛隊の活動に対する歯止めはなくなってしまう。
したがって、本件閣議決定及び本件派遣命令は、防衛省設置法、自衛隊法に違反するといわざるを得ない。
本件閣議決定は、中東地域の情勢について「日本関係船舶の防護の実施を直ちに要する状況にはない」とするが、閣議決定後状況は大きく変化し、2020年1月3日、米国がイラン革命防衛隊司令官を殺害し、イランは米国に対する報復を宣言して、同月8日、在イラク米軍基地を弾道ミサイルで攻撃した。武力紛争の発生は回避されたと報道されるが、中東地域における両国の緊張は依然として継続している。
このような状況の下で、今後何らかの不測の事態や武力衝突が生じる可能性は否定できず、自衛隊がこれに巻き込まれれば、自衛官の生命、身体を危険にさらすことになる。また、そのような危険な状況の下で自衛官による武器の使用(自衛隊法93条1項・警察官職務執行法7条、自衛隊法95条、同条の2)が、国又は国に準ずる組織に対してなされることになれば、それは憲法9条が禁ずる「武力の行使」ともなりかねない。
中東地域には、イランに対抗して米国が呼び掛けた有志連合等が活動を開始しているが、本件閣議決定は、「我が国は中東地域の航行の安全に係る特定の枠組みには参加せず、自衛隊の情報収集活動は我が国独自の取組として行うものであるが、諸外国等と必要な意思疎通や連携を行う」とする。しかし、自衛隊が情報収集活動を行う地理的範囲は、有志連合の活動範囲と広い範囲で重なっており、かつ、日本は、本活動により収集した情報を、在バーレーン米中央海軍司令部において米国に提供するものとされている。
このような状況の下で万一有志連合が武力の行使に至った場合、自衛隊の情報提供その他の活動が、他国の武力の行使と一体化したものとなり、あるいはそのようにみられる危険も否定できない。
本件派遣命令は、国会の審議を経ることなく閣議決定に基づいて実施されたが、自衛隊の海外派遣、それも緊張関係が高まり、本件閣議決定が予定する「不測の事態」も予想される地域への派遣という、憲法9条の基本に関わる重要な事項を、国会での審議すら経ないまま、時の政府による閣議決定のみで実施することは、恒久平和主義に基づく憲法によって国家機関を縛るという立憲主義の趣旨に反するといわざるを得ず、許されないというべきである。
以上のとおり、本件閣議決定に基づく中東海域への自衛隊の派遣は、憲法の立憲主義及び恒久平和主義並びに法治主義に反するといわざるを得ないものであり、また、閣議決定のみでなされたものであるから、当会は、政府に対し、すみやかに本件派遣を中止するよう求めるものである。
以上
2020年3月26日
神奈川県弁護士会
会長 伊藤 信吾
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