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会長声明・決議・意見書(2019年度)

刑事被告人の元弁護人の法律事務所に対する捜索・差押に抗議する会長声明

2020年03月06日更新

 2020年1月29日、東京地方検察庁の検察官らが、刑事被疑事件について、関連事件の弁護人であった弁護士らの法律事務所の捜索を行った。同弁護士らが、刑事訴訟法105条に則り、押収拒絶権を行使したにもかかわらず、検察官らは、無断で裏口から同法律事務所に立ち入った。検察官らは、再三の退去要請を無視して長時間にわたり滞留した上、法律事務所内のドアの鍵を破壊し、事件記録等が置かれている弁護士らの執務室内をビデオ撮影するなどした。なお、検察官らが押収に至った物は、弁護士らが捜索が始まる前に任意に呈示していた書面等1袋のみであった。

 

 弁護士は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる(押収拒絶権)(刑事訴訟法105条)。この趣旨は、秘密を委託される弁護士業務の性質と、この業務を利用する依頼者の保護にとどまらず、社会生活上不可欠なその業務が円滑に遂行されることを尊重することにある。秘密に該当するか否かの判断は、委託を受けた弁護士の専権に属するものとされている。

 

 そして、弁護士が押収拒絶権を行使した場合、押収対象物の捜索も許されない。押収は拒否できるが捜索は拒否できないとなれば、捜索の過程で捜査機関において、業務上の秘密にあたる物の閲覧・識別がなしうることとなり、刑事訴訟法105条の趣旨が没却されるからである。

 

 したがって、今回、押収拒絶権が行使され、立入りを拒まれているにもかかわらず、検察官らが、裏口から法律事務所に侵入し、要請を受けても退去せず、法律事務所内のドアの鍵を破壊し、執務室内をビデオ撮影するなどしたことは、正当化の余地のない違法行為である。

 

 憲法は、被疑者及び被告人の防御権及び弁護人依頼権を保障しており、弁護人は、被疑者及び被告人の権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努めなければならない。対立当事者である検察官が、弁護人に対し、その権利を侵害する違法行為に及ぶことは、刑事弁護活動を萎縮させようとするものであり、我が国の刑事司法の公正さを著しく害するものである。

 

 当会は、違法な令状執行に抗議するとともに、同様の行為を二度と繰り返すことのないよう求めるものである。

 

2020年3月5日

 神奈川県弁護士会

   会長 伊藤 信吾

 

 
 
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