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会長声明・決議・意見書(2019年度)

預託商法被害の防止のための法整備に関する意見書

2020年01月24日更新

2020年1月23日

神奈川県弁護士会

会長 伊藤 信吾


第1 意見の趣旨

消費者庁は、預託商法被害の再発防止のため、登録制による参入規制を導入するとともに金融商品取引法と同等の行為規制を設ける等の法整備を行うべきである。

第2 意見の理由

当会は、すでに2018年(平成30年)11月9日「預託商法被害の防止のための法整備に関する意見書」(以下、「当会意見」という)を取りまとめている。

当会意見は、預託商法被害は深刻であるのに現行の「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」(以下、「預託法」という)では再発防止はできなかったのであるから、抜本的な法整備が必要であること、預託商法に対して金融商品取引法(以下、「金商法」という)の「集団投資スキーム」(2条2項5号)を適用するよう法整備を行い、金商法による各種規制を及ぼす必要があるとの内容である。

この問題を検討してきた内閣府消費者委員会(以下、「消費者委員会」という)は、2019年(令和元年)8月30日に「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての建議」(以下、「建議」という)を採択し、消費者庁に対して販売預託商法とその類似商法の法制度や法執行の在り方について検討を求めた。

消費者委員会は、建議と同時に「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見」(以下、「消費者委員会意見」という)を公表して規制の在り方について方向性を示した。その内容は、預託商法のうち、業者が販売すると同時に預託を受けて第三者に貸し出す等の事業を行い、配当等の利益を還元したり契約期間満了時に一定価格で買い取る類型を「販売預託商法」として、その悪用形態(悪質な「販売預託商法」)によって消費者被害が発生しているとの認識の下に、悪質な「販売預託商法」については罰則による禁止と契約が民事的にも無効であることを法定する等となっている。

(2)消費者庁の考え方

これに対して消費者庁は、建議に先立って、2019年(令和元年)8月22日「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見について」(以下、「消費者庁見解」という)を消費者委員会に提出し、預託法の見直しに消極的な姿勢を示し、必要なのは現行法令の執行強化と体制整備であるとしている。

(3)本意見の意義

当会意見は、預託商法に対しては金商法の集団投資スキームを適用するように法整備すべきというものであった。しかし、建議は、金融庁が金商法で対応するという法整備によらず、消費者庁に法整備の検討を求める内容である。そして、消費者庁が建議への対応策をまとめることとなっている。

このような状況においては、預託商法被害の再発防止のため実効性のある預託法の見直しあるいは新法の制定が急務である。

そこで、預託商法に対して金商法の集団投資スキームを適用するように一元化することは中・長期的課題とし、消費者庁において速やかに被害防止のため法整備すべきであるところ、その法規制を実効性のあるものとすることが重要な課題となっている。本意見は、こうした観点から、法整備が金商法と同等の充実した内容となるとともに、金融庁に比して人的・財政的な体制整備が十分とまでは言えない消費者庁の現状にかんがみ、上記法整備に対応した同庁の一層の体制整備を行うことも求めるものである。

法整備に際して最も重要な点は、登録制による参入規制の導入である。参入規制により、最初から破綻必至の自転車操業スキームや、出資法違反あるいはその脱法行為のスキームを入り口で排除する必要がある。

ところが消費者庁は、預託法の見直しの必要性を否定している。消費者庁見解は、問題の本質は「商品を売って預かる」という行為自体にあるのではなく、「その実質が消費者への虚偽の説明・勧誘等によってなされる訪問販売や連鎖販売取引等を通じて、高額の物品を購入させたり、高額の負担を消費者にさせて、悪質事業者が違法な利益を収受する取引であることにある」との認識から、必要なのは現行法令の執行強化と体制整備であるとする。

消費者庁のこうした考え方は、極めて問題である。消費者庁は、預託法の下で多大な消費者被害を繰り返してきた事実を踏まえた検討をすべきである。

とくに、安愚楽牧場事件は、被害者7万3000人、被害額4300億円という最大の消費者被害が生じたにもかかわらず、消費者庁は預託法によって何らの行政処分を行うこともできないまま破綻に至った。

また、ジャパンライフ事件の場合には、消費者庁が4回にわたって行政処分をしたが、ジャパンライフが預託商法を始めたのは2003年(平成15年)11月であるから、最初の行政処分の2016年(平成28年)12月16日までに13年という歳月を要した。その間に、被害が著しく拡大している。

以上からしても、消費者庁の考え方では、預託商法の深刻な被害を防ぐことができなかったことは明白である。

(2)登録制と届出制

消費者委員会意見は、参入規制の導入を検討すべきであるとしているが、届出制も排除していない。しかし、届出制は、適式に書類を提出されたら受理するだけであり、登録制のような審査はできない。したがって、届出制では意味がない。そればかりでなく、あたかも消費者庁が公認している取引であるかのような誤解を消費者に与えるおそれがあり、むしろ弊害が予想される。

したがって、参入規制は届出制ではなく登録制によるべきである。

(3)登録要件の考え方

ジャパンライフの場合、当初から破綻必至の取引のスキームであったことが破産手続きのなかで明確にされている。このような取引は、当初から認められるべきではない。 

登録制による参入規制により、出資法違反の取引スキームはもちろん、出資法の脱法行為の仕組みであるもの、経済合理性がなく破綻必至な取引等は、排除する必要がある。

登録要件には、当該預託取引の収支を含めた財務基盤の健全性が十分であるかどうかという点を盛り込む必要性が高い。

(4)適用対象

預託法は、業者が販売した物を預かるかどうかに関わらず預託取引全般を規制対象としている。これに対し、消費者委員会意見は、指定商品制を排したうえで、「販売から始まる預託取引」を規制対象とすることを提言している。被害実態からすると、販売と一体となった預託取引について規制対象とする消費者委員会意見に賛成である。

脱法行為が横行しないように定義を工夫することが必要であるが、「販売から始まる預託取引」について被害防止のために十分な規制をするということであれば、所有している遊休資産を貸し出して活用するシェアリング・エコノミーの業態への影響もない。

金商法によらない場合においても、法整備に際しては金商法と同等の行為規制を設けるべきである。その規制内容については、既に当会意見書で指摘しているとおりであり、広告規制、勧誘規制、適合性原則、説明義務、分別管理等の一連の金商法の規制と同様の規制が必要である。

とくに、勧誘規制については、預託商法が深刻な被害を出し続けてきた経緯に鑑み、不招請の勧誘を禁止すべきである。また、販売預託取引の実質が投資であることからすると、分別管理は当然のことである。この場合、事業者には定期的な事業報告を義務付け、虚偽報告に対しては行政処分だけでなく刑事罰の対象として正確性が担保されなければならない。財務書類の記載内容の適切性・公正性を担保するため会計監査人による監査等を求めることとして、登録段階だけでなく事業継続過程においても財務健全性を確認すべきである。

(2)消費者庁による破産申立権

金商法が適用される場合、「金融機関等の更生手続の特例等に関する法律」により、金融庁は破産申立をする権限をもつ。

しかし、消費者庁が預託法を見直しても、消費者庁には破産申立権はない。監督当局に破産申立権限が必要であることは、既に当会意見で述べたとおりである。

行政の破産申立権限については、消費者庁に置かれた「消費者の財産被害に係る行政手法検討会」が2013年(平成25年)6月に「行政による経済的不利益賦課制度及び財産の隠匿・散逸防止策について」を取りまとめている。そこでは、消費者庁が破産申立権をもつべき事案の要件として次の3つをあげている。

  ①システムとして違法又は破綻必至であって、同一の事業者による同種の取引で多数の消費者に現に被害が発生している事案で

  ②消費者自らが破産申立を行うことが期待することができない場合であり

  ③監督官庁が存在せず、監督官庁による是正措置が期待されない事案

しかし、このうち③は、いわゆる隙間事案を念頭においた要件である。これは、監督官庁が存在する場合には当該監督官庁が破産申立権をもつべきかどうかを検討すべきであるとの考え方による。

しかし、預託商法に対しては消費者庁が監督官庁なのであるから、消費者庁において破産申立権をもつべきか否かを検討しなければならない立場である。

ジャパンライフの事案においては、4回にわたって業務停止処分を受けながらジャパンライフが営業を止めなかったため、多額の税金や労働債権が未払いの状態で破産手続き開始決定となった。その結果、財団債権が多く、被害者への配当の見込みはたっていないという現状にある。

このように、預託商法被害はまさに①②の要件を満たしていて消費者庁が破産申立権を持つべき事案なのであるから、消費者庁において速やかに制度化すべきである。

以上から、預託商法の事前予防、被害救済を実効的に図るため、登録制による参入規制を導入するとともに、金商法と同等の規制を設ける等の法整備を行うべきである。


以上

 
 
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