2019年07月12日更新
しかし,逆転現象解消の一因は,平成25年8月以降,生活保護基準が切り下げられたことにあり,生活保護基準自体が「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことができる水準を下回った結果である。
第1に,地域や家庭の状況によって最低賃金の水準が生活保護基準を下回っている事例は少なくない。
例えば,横浜市等においては,1時間の最低賃金額983円で厚労省試算が用いる労働基準法の労働時間規制の上限である1か月173.8時間働いた場合の賃金は170,845円である。これに厚労省試算で税・社会保険料を除いた可処分所得を算定するために用いる指数0.824を乗じると140,776円となり,全額が可処分所得となる生活保護基準147,110円(住宅扶助を上限額とし,年齢を18~19歳とするほか厚労省試算と同様に算定)を下回る。
また,厚労省試算は医療費を要しない19歳以下の単身者を前提にしており,子育て中のひとり親世帯などでは最低賃金の水準が生活保護基準を大幅に下回る。
例えば,横浜市等では,中学生2人を養育するひとり親世帯であれば生活保護基準が約32万円になる。ところが一方で,当該ひとり親が最低賃金額でフルタイム働いても賃金は前記のとおりであり,2人分の児童手当及び児童扶養手当計約7万円を受給したとしても生活保護基準には及ばず,現在の最低賃金額は,ひとり親が子育てをするには到底足りないのである。また,生活保護では医療扶助により医療費の自己負担が不要となるが,最低賃金で働く労働者は,医療費を支出するとさらに生活を切り詰めなければならないことから,診療を諦めることを余儀なくされかねないのである。
第2に,厚労省試算が用いる労働時間は実態に即していない。厚労省試算は,最低賃金に基づく1か月あたりの収入の算定につき労働時間を労働基準法の労働時間規制の上限である1か月173.8時間としている。しかし,神奈川県毎月勤労統計調査によれば,県内の労働者の所定内労働時間はフルタイムにあたる一般労働者でさえ1か月あたり150.8時間にとどまる。この時間を最低賃金額983円で働いた場合,1か月の賃金は148,236円であり,厚労省試算が用いる指数0.824を乗じると可処分所得は122,146円にとどまるのであって,生活保護基準を大幅に下回る。
2019年7月11日
神奈川県弁護士会
会長 伊藤 信吾
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