2019年06月14日更新
2019年5月28日、仙台地方裁判所は、旧優生保護法の下、強制不妊手術を受けた原告らが国に対し、損害賠償を求めた訴訟において、「子を産み育てるかどうかを意思決定する権利」(リプロダクティブ権)について、人格的生存の根源にかかわるものであり人格権の一内容を構成する権利として憲法13条の法意に照らし尊重されることを認めた。そして、不妊手術等を強制する旧優生保護法の規定は個人の尊厳を踏みにじり前記「リプロダクティブ権」を奪うものであって、憲法13条に違反して無効であると判断したものである。
にもかかわらず、この判決は、長期間にわたって、国会が被害者らの権利の行使の機会を確保すべく立法措置を執らなかったことにつき、国家賠償法上違法の評価を受けないとして、除斥期間を理由に原告らの請求をいずれも棄却するという判決を言い渡した。しかし、このように原告らの被害回復を実現しなかったことは、人格的生存の根源にかかわるリプロダクティブ権の重要性、並びに、除斥期間に対しては学説上の強い批判があり、被害者救済のため、その適用は制限的に解釈されていること等からしても、不当といえる。仙台の原告や、全国7地裁で行われている訴訟の原告をはじめ、強制不妊手術を受けた方々の被害は現在も続いているのであって、旧優生保護法仙台訴訟の上級審においては、より一層の慎重な審理と判断がなされるべきである。
加えて、この判決に先立つ2019年4月24日「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(救済立法)が成立しているが、その救済は、わずか320万円という低額な一時金の支給に止まっている。然るに、前記仙台判決は、旧優生保護法の規定を違憲とし、国の責任を認めたのであるから、国は、その責任について向き合い、320万円という低額な一時金の金額についても見直して、被害者に遍く十分な救済がいきわたるよう、改めて、国会において審議するよう求めるものである。
厚生労働省や県の発表によると、神奈川県においても、少なくとも462名という多数の被害者がいることが明らかとされており、救済立法についての相談や一時金の請求も実際になされている。よって、神奈川県弁護士会としては、これまでも電話相談等を実施してきたが、今後も、旧優生保護法下における強制不妊手術等による被害者の被害の回復を図ることに尽力し、障害のある人もない人も、すべての人が、人として当たり前の生活を当たり前にすることができる社会にするべく、共生社会の実現に努めることを表明する。
2019年6月13日
神奈川県弁護士会
会長 伊藤 信吾
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