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会長声明・決議・意見書(2018年度)

医学部入試における女性差別に抗議し性差別の撤廃を求める会長声明

2018年12月14日更新

  1. 2018年8月以降、一部の大学医学部において女性受験生に不利な得点調整を含む不公正な選抜が行われていたことが明らかになった。また、文部科学省が過去6年間の医学部入試を対象に行った調査によれば、全ての年において、男性受験生の合格率(合格者数/受験者数)が女性受験生のそれを上回っている。しかし、医学部以外の学部では、このような現象は見られず、男女の合格率がほぼ同じか又は女性の方が高い。また、医師国家試験でも同様に、男女の合格率がほぼ同じか又は女性の方が高い。そうすると、医学部入試における女性差別は、意図的な得点調整を行っていたことを公表した大学以外の大学でも広く行われていたか、又は、意図的な得点調整以外の方法で女性に不利な選抜が行われていた可能性がある。加えて、医学部入試においては筆記試験に加えて面接試験が広く行われているところ、面接試験は採点が主観的になされる余地があるので、意識的又は無意識に、面接試験において女性受験生に不利な採点・選考がなされた可能性もまた否定できない。

    しかし、女性であることを理由とする不利益取扱いは、憲法14条の下で公の秩序を構成する男女平等原則に反しており、私立大学も学校教育法上の教育機関として公の性質を有すること、並びに、性別を理由に医師という職業に就く道を閉ざされるという重大な不利益をもたらすことに照らせば、絶対に許されないというべきである。

  2. 東京医科大学内部調査委員会の報告書によれば、女性に不利な得点調整を行った動機として、「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」との見解が挙げられ、また、同大第三者委員会の報告書によれば、入試委員の中には「医師の全体数が変わらない中では、女性医師を増やすと、診療科目によっては医療崩壊の危険がある」との認識に基づき、女性を不利益に取り扱うことに理解を示す意見があったとされる。

    この点、統計上、出産・育児等を契機として女性医師が離職する傾向が認められる。その要因として、女性医師の約7割が男性医師を配偶者としている中で、医師は他の職種に比べても長時間労働の割合が特に高く、医師としての勤務と家事・育児等の家庭内労働の両立が困難になっていること、並びに、「男は外で働き、女は家庭を守る」という性役割分担意識が社会的に強い影響力を持ち、主として女性は家事・育児等の家庭内労働を担わざるをえないとされることにより、特に女性医師にとって勤務継続と出産・育児等との両立が一層困難になっている状況がある。

    しかし、男女が性別に関わりなく個人として尊重されるべきものである以上、労働効率の低下を理由として女性医師の数を減らすという方策は許されない。出産・育児等と医業の両立を困難にするような医師の長時間労働を可及的速やかに解消することが必要である。それとあわせて、男女が性別に関わりなく家事・育児等の家庭内労働を担えるように性役割分担意識を克服することも求められる。

    また、面接試験において、女性受験生に対してのみ「子どもを産んだ後も医師を続けるのか」「熱を出した自分の子どものお迎えと外来の急患のどちらを優先するか」などの質問がなされたケースがあるとの報道もなされている。面接試験において、意識的又は無意識に女性受験生に不利な採点・選考がなされることを防止するためには、面接試験の評価基準を明確化したり、試験官の性別を男女同数にしたりするなどの対策が必要となる。

  3. 以上を踏まえ、当会は、関係機関に対し、次のとおり要請する。
    1. 医学部を設置する全ての大学は、面接試験を含む医学部入試の選考過程における性差別の影響について徹底した調査を行い、その結果を公開するとともに、不公正な選考による被害を受けた受験生に対する救済措置を講じること、並びに、実効性ある再発防止策を講じること。
    2. 文部科学省は、大学の自治に配慮しつつ、医学部入試における性差別の影響について引き続き徹底した調査を行い、その結果を公表するとともに、各大学が上記の取組みを行うことを支援するためのガイドライン作成等の環境整備を行うこと。
    3. 厚生労働省は、医師の長時間労働を解消し、医師が性別に関わりなく能力を発揮して働き続けることのできる労働環境の整備のための適切な措置を講じること。
    4. 政府及び国会は、医師の長時間労働を解消し、医師が性別に関わりなく能力を発揮して働き続けることのできる労働環境の整備、並びに、性役割分担を解消し、性差別を撤廃するための適切な立法上の措置を講じること。

2018年(平成30年)12月13日

神奈川県弁護士会

会長 芳野 直子

 
 
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