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会長声明・決議・意見書(2018年度)

預託商法被害の防止のための法整備に関する意見書

2018年11月09日更新

2018年(平成30年)11月8日
神奈川県弁護士会
会長 芳野 直子

第1 意見の趣旨

預託商法に対しては、金融商品取引法の「集団投資スキーム」(2条2項5号)を適用するよう法令の整備を行うべきである。

第2 意見の理由

1 預託商法の被害

「預託商法」とは、業者が消費者に商品を売却して代金を支払わせると同時にその商品を業者に預託させることで実際には商品の引渡しを行わず、預託期間中は業者が消費者に預託料を支払うという仕組みの商法である。預託期間が満了した場合には、預託した商品を渡すか現金で清算するかを消費者が選択できるとする場合がほとんどである。現金で清算する場合の額については、売買代金額と定める事案が多い。

豊田商事事件の預託商法の場合には、豊田商事が消費者に「金は値上がりする」などと勧誘して金地金の売買代金名目で代金を支払わせ、「預けてもらえば賃借料を払う」として引渡しをしなかった。周知のとおり、豊田商事が破綻し、豊田商事が預託を受けたはずの金地金は実際には存在しないことが明らかになった。

2 預託法の制定とその内容

このような預託商法被害の再発防止のためとして、1986年(昭和61年)に制定されたのが「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」(以下「預託法」という。)である。

同法の定義する「預託等取引契約」は、3か月以上の期間にわたり、政令指定商品・権利の預託及び当該預託に関し財産上の利益を供与することを約し、契約者(消費者)がこれに応じて当該商品・権利を預託することを約する契約としている(2条)。

預託商法は、業者の消費者に対する売買契約と預託契約を組み合わせたものである。しかし、この定義では、預託商法の売買契約の部分が欠落しており、預託契約だけが捉えられている。そのため、同法の規制も預託契約だけを対象としている。例えば、クーリング・オフ(8条)、中途解約権(9条)は預託契約だけを対象としているので、これらの権利を行使しても売買代金が戻るわけではない。

同法における規制の概要は、書面交付義務(3条)、重要事項の故意の不告知・不実告知の禁止(4条)、威迫等の不当勧誘行為の禁止(5条)、書類の備え置きと閲覧(6条)などの行為規制と、報告・立入検査(10条)、業務停止命令等(7条)などの行政権限、罰則(14条ないし17条)である。

3 預託法で再発防止はできなかった

預託法の施行によって預託商法被害が防止できたかと言えば、防止どころか却って被害が拡大してしまった。

特に、和牛を取引対象とした和牛預託商法には多くの業者が参入した。豊田商事の場合と同様、預託を受けたとする和牛などは存在しなかったため、1997年から2017年にかけて、出資法違反による摘発が相次いだ。和牛預託商法の最大の被害は、2011年に破綻した安愚楽牧場事件である。この事件は、被害者73,000人・被害額4,300億円という空前の大型消費者被害である。豊田商事事件は被害者29,000人・被害額2,000億円であったので、預託法によって再発防止するどころか、その倍以上の被害を引き起こしたことになる。

このように、預託商法による大規模な消費者被害が続発していたにもかかわらず、抜本的な見直しがとられないまま推移していたところ、本年3月1日にはジャパンライフ株式会社が東京地方裁判所から破産手続き開始決定を受け、再び預託商法による大型消費者被害事件が起こってしまった。ジャパンライフ事件の被害実態の詳細は破産管財人の報告を待つことになるが、被害額は豊田商事事件に迫る規模とみられている。

以上のとおり、預託法の不備は明白であり、これ以上の被害を防止するため、速やかに抜本的な法整備をする必要がある。

4 法規制の考え方

預託商法被害を防止するためには、以下に述べるとおり、預託商法を、金融商品取引法の集団投資スキームに該当するものとして、金融商品取引法の各種規制を及ぼす必要がある。

  1. 預託商法の実質

    預託商法は、形式的には商品等の売買契約と預託契約の形をとっているものの、被害者は当該商品等の引渡しを受けるわけではなく、預託期間中は預託料名目の支払いを受け、預託が終了した時点で当初支払った代金の返還を受けるために契約している。つまり、預託商法の実質は投資取引であり、預託取引という名目をとって投資取引に関する一連の法規制を免れているところに問題がある。

    例えば、ジャパンライフの「短期契約」と称する契約の場合は、被害者が商品を購入し(売買契約)、その商品をジャパンライフへ預託する(預託契約)という形態をとるが、被害者は商品を受け取ることなく、預託の対価名目で毎月決まった日に年6%の利払いを受ける。解約も自由であり、解約すれば購入代金も全額返金される。つまり、資金の流れの観点からすると、現金を預けて(購入代金分)、年利6%の銀行定期預金をしているのと同様の構造である。つまり、ジャパンライフの「短期契約」は元本保証・確定配当を謳う投資取引に他ならない。そうすると、金融商品取引法の下では参入が認められるべきでない業者により、認められるべきでないビジネスモデルが預託法の下で行われてきているのである。

  2. 集団投資スキーム

    (1)で述べたような預託商法の実質からすると、預託商法は金融商品取引法の集団投資スキームを適用するのがふさわしい類型である。同法は、投資に対するすき間のない法規制を目指す観点から、集団投資スキームの概念を創設し、集団投資スキーム持分をみなし有価証券とし、次のように定義している(2条2項5号)。

    「民法第667条第1項に規定する組合契約、商法第535条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律第3条第1項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であって、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く)の規定により有価証券とみなされる権利を除く)」

    このように、顧客の出資は金銭に限られず、それに類するものとして政令で定めるものが含まれている。そして、政令には、金銭の全部を充てて取得した物品であって内閣府令で定めるもの(金融商品取引法施行令1条の3第4号)が含まれている。これを受けた内閣府令では、金銭の全部を充てて取得した物品として、競走用馬が定められている(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令5条)。

    このように、出資又は拠出をした出資者が出資対象事業から生ずる収益の配当又は出資対象事業にかかる財産の分配を受ける権利であれば、適用除外にあたらない限り、法形式、契約形式を問わず、有価証券とみなすこととされており、概念上、出資が金銭で行われることに限定されるものではない。また、拠出した資金を合同運用することが要件とされているわけでもない。

    したがって、預託商法を金融商品取引法の集団投資スキームの定義規定に含むこととするように法令を整備するのが妥当である。

  3. 金融商品取引法による規制の内容

    ア 参入規制

    集団投資スキームとされれば、業者がその持分の募集ないし販売をするには金融商品取引法の第二種金融商品取引業の登録が必要となる(28条2項1号、2号、29条)。

    無登録営業に対する罰則は、懲役5年以下、罰金500万円以下、又はその併科である(197条の2第10号の4)。無登録で営業したということだけで摘発できるので、違反の場合に迅速に対応できる。

    元本保証等の金融法制に反するような取引を謳う業者について登録が認められるべきではないことは当然であり、登録要件を工夫することによって預託商法被害の事前防止を図ることが可能となる。

    イ 破産申立権限ほかの監督権限

    かつては、監督庁が破産申立できるのは証券会社に対してだけであった。しかし、行政処分だけでは業者による資産の流出等を防止できないとして、2010年(平成22年)に金融機関等の更生手続の特例等に関する法律490条1項等を改正し、金融商品取引業者全般に拡大した。

    そのため、預託商法を金融商品取引法の適用対象とした場合には、行政処分だけでなく、破産申立も可能になる。ジャパンライフの場合、消費者庁に破産申立権限がないため、業務停止処分が4回にわたって出されたものの被害を根絶することができず、業務停止期間中に会社資産が著しく劣化し、破産手続による被害救済を困難にしている。このような事態を、回避できることになる。

    なお、監督権限は内閣総理大臣から金融庁長官に委任されており(194条の7第1項)、さらに金融庁長官から証券取引等監視委員会に委任されている(同条2項)。監督権限としては、報告の徴収及び検査(56条の2)、業務改善命令(51条)、業務停止命令、登録の取消し等の処分(52条)のほか、緊急差止・停止命令(192条)等が定められている。

    ウ 行為規制

    第二種金融商品取引業者には、金融商品取引法の定める各種の行為規制が課せられており、被害発生の防止に役立つ。主なものをあげれば、広告等の規制(37条)、契約締結前の書面の交付(37条の3)、契約締結時等の書面の交付(37条の4)、虚偽告知の禁止(38条1号)、断定的判断の提供の禁止(同条2号)、不招請勧誘の禁止(同条4号。この規定が適用されるのは政令で指定された取引に限られるが、預託商法が被害を発生させ続けてきた経緯からすれば、政令指定取引とすることが適当である)、勧誘受諾の意思確認をしない勧誘の禁止(同条5号。これも不招請勧誘禁止の場合と同様、政令指定するのが適当である)、再勧誘の禁止(同条6号。同じく政令指定するのが適当である)、説明義務(同条9号、金融商品取引業等に関する内閣府令117条1号)、適合性原則(40条)、分別管理が確保されていない場合の売買等の禁止(40条の3)、金銭の流用が行われている場合の募集等の禁止(40条の3の2)等がある。


5 結論

以上から、預託商法被害の事前予防、被害救済を実効的に図るため、金融商品取引法を適用できるように法令を整備すべきである。

以 上

 
 
本文ここまで。