2018年09月14日更新
当会が横浜家庭裁判所から受けた家事調停委員候補者の推薦依頼に対して、当会が本年6月に同庁に対して推薦した当会会員6名のうち1名について、日本国籍を有しないとの理由のみで最高裁判所への任命上申が見送られた。
かかる任命上申見送りは、「公権力の行使に当たる行為を行い、もしくは重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とする公務員(以下「公権力行使等公務員」という。)には、日本国籍を有する者が就任することが想定されていると考えられるところ、調停委員・司法委員はこれらの公務員に該当するため、その就任のためには日本国籍を必要と考えている。」という最高裁判所の見解に基づくものである。
しかし以下の理由から最高裁判所の上記見解は不当であり、この見解を理由にした任命上申見送りもまた不当である。
第一に、家事調停委員について日本国籍を要求する規定は存在しない(家事事件手続法第249条第1項・民事調停委員及び家事調停委員規則第1条及び第2条参照)。にもかかわらず最高裁判所が運用によって他の要件を課すること自体問題である。
第二に、調停委員の本質的役割は、専門的知識もしくは社会生活の上での豊富な知識経験を活かして、当事者双方の話し合いの中での合意を斡旋して紛争の解決にあたるというものであり、調停委員はその職務の性質上具体的な公権力の行使、重要な施策に関する決定またはこれらへの参画は行わない。
この点調停調書は確定判決と同一の効力を有するが、これは当事者間の合意による紛争解決の意思を尊重したものである。また調停に代わる審判を行うのは家庭裁判所であり、調停委員は意見を求められるに過ぎない。そして調停委員会には調停の運営以外にも一定の権限が与えられているが、調停制度による紛争解決を実効性の高いものとするための付随的な処分に過ぎず、調停委員はその議決に加わるのみである。
したがって、一般論として公権力行使等公務員への外国籍者の就任を一切排除するとの法理そのものに疑問がないわけではないが、仮にこの法理によっても調停委員は公権力行使等公務員に該当しない。
第三に、日本には250万人以上の在留外国人(神奈川県内だけで20万人超)が生活しており、十分な資質を有する外国籍者が調停委員として手続に携わることは調停制度をより充実させることに繋がる。また多民族多文化共生社会形成を実現するためには、日本に定住している外国籍者が調停委員として手続に携わることが望ましい。
第四に、最高裁判所は1974年から1988年まで日本国籍を有しない弁護士を民事調停委員に任命し、定年退職時には表彰を行った実例がある。
当会は過去に2015年7月8日付け意見書を発出して最高裁判所が日本国籍の有無にかかわらず等しく家事調停委員に任命することを求めており、当会以外にも日弁連、各地の弁護士会等も決議、意見書、会長声明及び申入書等を長年発出し続けてきた。加えて国連人種差別撤廃委員会は日本に対して三度の勧告を行っている。にもかかわらず最高裁判所が上記見解を改めずに今回の事態に至ったことは極めて遺憾である。
以上により、当会はこの問題の当事者として外国籍者排除の不条理さを身をもって体験したことを受け、最高裁判所に対し、上記見解を早急に改めたうえで、法律及び規則の要件を充足するのであれば日本国籍の有無にかかわらず等しく家事調停委員に任命することを改めて求める。
以上 2018年(平成30年)9月13日 神奈川県弁護士会 会長 芳野 直子
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