ページの先頭です。
本文へジャンプする。
サイト内共通メニューここまで。

会長声明・決議・意見書(2018年度)

日本国憲法の改正手続に関する法律についての会長声明

2018年09月14日更新

  1. 本年6月27日、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「本法」という)の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)が国会に提出された。改正案は、駅や商業施設に共同投票所を設置するなど、2016年の公職選挙法の改正に伴う投票環境の向上についての制度を盛り込んだものである。

    しかしながら、本法には、公職選挙法との整合性以外にも、さまざまな問題点があり、そもそも本法成立時の参議院の調査特別委員会では18にも及ぶ附帯決議がなされていた。そして以下に述べるテレビ・ラジオの有料広告規制と最低投票率の問題については、特に本法施行まで、と期限を区切って検討を加えることを求められていた重要な課題である。これらは実質的にも、直接国民投票の結果の公正・公平に重大な影響を及ぼす問題であり、何らの見直しもなされないまま国民投票が実施されれば、正しい民意の反映という観点から、大きな疑義が生じることになりかねない。

  2. まずテレビ・ラジオの有料広告の規制についてであるが、この点、憲法改正に関してこそ、表現の自由等は保障されなければならず、広告などの規制は最小限にとどめるべきであるとの意見も、原則論としては尊重されなければならない。

    しかしながら、他方で、有料意見広告放送を自由市場に委ねることは、かえって憲法改正の是非についての多様な情報に基づく実質的かつ対等・平等な議論を阻害する結果をもたらすことが、強く危惧される。とりわけテレビ・ラジオのスポット的な広告は、理性的な議論を深めるというよりは、過度に単純化された内容で一方的に視聴者の感情やイメージに訴えるという側面が強く、その影響力には極めて大きいものがある。しかも放送という資源は有限で、かつ、広告を出すのには膨大な費用を要するという特徴がある。したがって、これらに何らの規制も加えなければ、内容についての議論の深まりもないまま、資金力のある側のテレビ・ラジオ広告のみが大量に流され、国民の受け取る情報量に格段の差が生じるという事態も生じかねない。これでは、かえって自由で公平な議論を妨げ、憲法改正という非常に重要な問題についての主権者の公正・公平な意思形成過程を歪め、資金力次第で国民投票の結果を左右するということになりかねず、表現の自由の保障に実質的に背反することになる。

    表現の自由を支える価値は、個人の自己実現の価値とともに、言論活動によって国民が政治的意思決定に関与し、民主政に資する社会的な自己統治の価値に存することが指摘されるが、憲法改正問題においてこそ、その価値が実現されなければならない。そのためには、マスメディアの受け手である国民に対し、一方的な情報ではなく、賛成・反対の理由その他、伝達される情報の多様性が保障され、内容豊かで自由闊達な議論がなされなければならず、そのための条件が確保されなければならない。

    したがって、賛成、反対双方が、互いに対等な立場で理性的かつ多面的な議論を尽くし、公正・公平な国民投票を実現するという観点から、例えば公費によるテレビ・ラジオでの意見表明の機会を広く設定した上で、テレビ・ラジオの有料広告については、これを全面的に禁止する、あるいは、広告費用に上限を設けるなど、何らかの規制が必要であるというべきである。

  3. また、最低投票率については、本法には、最低投票率の定めがなく、投票率が低かった場合、国民の少数の意見で憲法改正が実現する可能性がある。

    この点、憲法に何ら最低投票率についての定めがないことや、ボイコット運動が行われる可能性があることなどから、最低投票率の定めを置くことについて反対する立場もある。しかしながら、最高裁判所の国民審査でも、法律で憲法の定めていない最低投票率の要件を設けているし、憲法で定めがないからといって法律で要件を課せないわけではない。またボイコット運動も民意のひとつの現れであり、一概に否定されるべきものでもない。

    むしろ、国のあり方を定める憲法改正は、主権者たる国民の多数の意思が十全に反映されてこそ、正当性を持ちうるのであり、あまりに少ない賛成票での憲法改正を避けるために最低投票率の定めは必要である。

  4. 本法には、このほかにも、公務員や教育者の地位を利用した国民投票運動の制限や、国民投票での「過半数」(憲法96条)の算定について、白票などの無効票が基礎票から除かれることになっていることなど、さまざまな問題がある。当会では、本年5月22日の総会決議において、国会に対し、本法の見直しを求め、拙速な憲法改正の発議をしないよう求めるとの意見を表明した。本法の改正案は秋の臨時国会で継続審議されることになるが、当会は、本年の総会決議を踏まえ、国会に対し、本件会長声明で指摘した上記の問題点等について十分検討した上で、本法の抜本的な改正を求めるものである。

以上

2018年(平成30年)9月13日
神奈川県弁護士会         
会長 芳野 直子      

 
 
本文ここまで。