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「袴田事件」再審開始決定に対する即時抗告審決定に関する会長声明
会長声明・決議・意見書(2018年度)
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「袴田事件」再審開始決定に対する即時抗告審決定に関する会長声明
2018年07月12日更新
本年6月11日、東京高等裁判所第8刑事部(大島隆明裁判長)は、袴田巌氏(以下「袴田氏」という。)の第2次再審請求事件について、再審開始を認めた静岡地方裁判所の決定を取り消し、再審請求を棄却すると決定した(以下「本決定」という。)。
本件は、1966年(昭和41年)6月30日未明、旧清水市(現静岡市清水区)の味噌製造会社専務宅で、一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件である。確定判決は、事件から約1年2か月後に工場の味噌タンクの中から発見された血痕が付着した衣類5点を袴田氏が犯行時に着用していたと認定し、袴田氏に対する死刑判決が確定している。
第2次再審請求審では、犯行時に着用したとされた衣類の評価が大きな争点となった。弁護人は、同衣類に付着した血痕液が袴田氏のものとは認められないとする本田教授が実施したDNA鑑定(以下「本田鑑定」という。)及び1年以上味噌タンク内に漬かっていたにしては着衣の色が薄くて不自然であるとする味噌漬け再現実験報告書を新たな証拠として提出した。原審は、これらの証拠価値を高く評価し再審開始を決定した。
これに対し本決定は、本田鑑定の結果について、一般的に実用化されていない方法である、5点の衣類が外来DNAに汚染されていた蓋然性がある、衣類に付着した血液中のDNAの型が検出されたと推認するには疑問がある等指摘して、その信用性は乏しいとした。また、味噌漬け再現実験報告書についても、実験結果の比較対象とした5点の衣類の写真は写真自体が劣化している、撮影時の露光が不適切であった疑いがあることから発見時の色合いが正確に表現されておらず比較対象の資料となり得ない等として証拠価値は低いとした。そして、その他の新証拠についても、それぞれが確定判決の認定を左右する証拠とはいえないとして、再審開始を認めた原決定を取り消し、再審請求を棄却した。
しかしながら、そもそも再審開始要件である無罪を言い渡すべき明らかな証拠(刑訴法435条6号)とは、「もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうか」という観点から新旧証拠を総合的に検討して判断すべきものである(白鳥事件における最高裁決定)。ところが本決定は、「新旧証拠の総合評価」との項目を設けつつも、その実質は個々の新証拠を確定判決の認定を覆すだけの証拠価値があるかを個別に検討しているのであり、その判断枠組みは上記最高裁決定の趣旨に反しているといわざるを得ない。
そして、本決定が言うように本田鑑定が一般的に実用化されていない方法である等の事情があったとしても、その結果が袴田氏の犯人性に疑問を抱かせる事情であることに変わりはなく、再審開始を判断する際の証拠として真摯に取り上げられなければならない。また、写真の劣化、露光の疑いはその可能性があるというに過ぎないのであり、味噌漬け再現実験報告書の証拠価値を直ちに否定する理由にはならないし、かかる報告書も袴田氏の犯人性に疑問を抱かせる事情であることに変わりはない。原審の積極的な判断からしても、上記各証拠に相当の価値があることは明らかである。加えて即時抗告審では、新たに開示された取調べ時の録音テープから取調べの違法な実態が改めて明らかになるなど、複数の新証拠が提出されている。
このような複数の新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたならば、袴田氏の犯人性に合理的な疑いは生じるのであり、確定判決における事実認定に到達するとは考えられない。
再審請求人は最高裁判所へ特別抗告を行ったが、これは至極当然である。
袴田氏は、現在82歳の高齢であり、長期に亘る身体拘束によって心身を病むに至っており、袴田氏の救済に一刻の猶予も許されない。
当会は、再審事件においても適用される「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則に従い、特別抗告審において本決定が取り消され、一刻も早く袴田氏の再審が開始されることを望むとともに、今後も引き続き支援を表明するものである。
2018年(平成30年)7月11日
神奈川県弁護士会
会長 芳野 直子
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