2018年05月11日更新
第1 声明の趣旨
特定高度専門業務・成果型労働制(いわゆる「高度プロフェッショナル制度」、以下では「高度プロフェッショナル制度」という。)の創設は、適用対象となる労働者について労働時間の無制限な増大を促し、これにより過労死・過労自殺をさらに増加させる結果を招来するおそれが極めて強い。
そのため、当会は高度プロフェッショナル制度の創設に反対する。
第2 声明の理由
高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を必要とする業務に従事する労働者について、対象となる労働者の合意や一定額以上の年収を得ていること等を要件とし、労働基準法が定める労働時間等に関する規定を全て適用しないとする制度である。
高度プロフェッショナル制度の創設は働き方改革関連法案の一つとして定められており、今国会での成立を目指す方針が堅持されている。
そもそも労働基準法が法定労働時間を超えて労働者を働かせることについて刑事罰を含めた厳しい規制措置を講じているのは、長時間労働が労働者の心身の健康を害し、心身の疾病の原因となり、最悪の場合、過労死・過労自殺という取り返しの付かない事態を生じさせるからである。
長時間労働を原因とする過労死・過労自殺が多発していることは大きな社会問題となっている。そのため、2014年には過労死等防止対策推進法が制定され、国の責務として過労死等の防止対策を推進することが定められたが、いまだに過労死・過労自殺の防止は実現する兆しすら見えない。
多くの犠牲者を生み、過労死・過労自殺の防止が人の命に関わる切実な願いとして叫ばれているにもかかわらず、過労死・過労自殺の根絶が一向に実現しないのは、違法な長時間労働が野放しにされているからである。
高度プロフェッショナル制度の創設は、違法な長時間労働を適法化し、長時間労働に対する法的規制を無くすことで、労働時間の無制限な増大を促すことに他ならない。なお、高度プロフェッショナル制度には一定の健康確保措置を講じることは定められているが、長時間労働が労働者の心身に与える強い負担や、そのことで引き起こされる過労死・過労自殺を防止するには全く不十分である。
過労死・過労自殺の原因となる長時間労働を無くすために国が行うべきは、高度プロフェッショナル制度の創設ではなく、労働基準法第4章が定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を厳格に遵守することを事業主に求めることである。
以上のことから、当会は高度プロフェッショナル制度の創設に強く反対する。
2018年(平成30年)5月10日 神奈川県弁護士会 会長 芳野 直子
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