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会長声明・決議・意見書(2017年度)

『谷間世代』の貸与金の返還期限の猶予を求める会長声明

2018年03月28日更新

 新第65期(2011年11月任用)から第70期(2016年11月任用)までの司法修習生であった者(いわゆる「谷間世代」)については、その修習期間中に国庫から給費や給付金などの名目で一定額の生活資金を受けることができず、その代わりに必要に応じてその貸与を受けるという「貸与制」が採用されていたところ、本年7月25日から貸与金の返還が開始されることが予定されている。
 当会は、以下に述べる理由から、上記貸与金の返還をひとまず停止し、「谷間世代」が被っている不平等、すなわち「谷間世代」だけが修習期間中に支給を受けた資金の返還を求められているという不平等を解消し是正する一定の措置が講じられるまでの間、貸与金の返還を猶予するよう求める。
 司法修習生が修習期間中に一定額の生活資金を受けることとされている趣旨は、司法修習生が修習に専念する義務を負い、他の公務員と同様に兼業を禁止されているからである。戦後まもなく開始された司法修習制度において国民全員が貧しい中でも給費制が採用され2010年11月任用の旧第65期までの全ての司法修習生に対して給費の支給が継続されたこと、さらには2017年11月任用の第71期司法修習生からは不十分ながらも修習給付金が支給されていることは、まさにかかる趣旨の顕れである。したがって、「谷間世代」の司法修習生に対しても修習専念義務、兼業禁止が課された以上、これらの修習生に対して生活資金を支給しない理由はない。
 問題は、「谷間世代」に対しては貸与、つまり借金という形で生活資金が支給されたことである。つまり、「谷間世代」以外の司法修習を終了した世代は、全て修習中に支給された生活資金の返還義務を負わないのに、「谷間世代」だけがその返還義務を負うという不平等にさらされているのである。
 「谷間世代」の法曹は11,000人以上に上り、このうち貸与金を借り入れた法曹は約8,100人(約75%)に上る。ちなみに「谷間世代」のうち約9,500人が弁護士であり、当会にもそのうち約410名が登録をしている。これは、当会会員全体の4分の1を占める人数である。
 そして、本年7月、「谷間世代」の第1期に当たる新第65期の者から、貸与金の返還が開始される。新第65期の弁護士は、登録後6年目を迎えた若手の世代である。このような若手弁護士は、従来、多種多様の事件処理を通じて経験を積む中で、必ずしも経済的満足を得られずときには手弁当であったとしても、人権擁護の観点から取り組むべき事件を積極的に受任し熱心に取り組んできたのであり、このような取り組みがわが国全体の人権保障に一定の寄与をもたらしてきたことは紛れもない事実である。
 もちろん、このような取り組みについては「谷間世代」の若手弁護士においても、それまでの世代の弁護士と些かも変わるところはなかった。しかしながら、本年7月以降、貸与金の返金が開始されてしまうと、その経済状態如何にかかわらず、300万円を借りた場合、多い者では一時に毎年約30万円もの貸与金を返還しなければならないことになるのであり、返還義務の到来した若手世代が今後は人権擁護よりも経済的満足を優先せざるを得ない状況に晒されるであろうことは想像に難くない。それにもまして、いったん返還が開始されてしまうと、上記に述べたような「谷間世代」の不平等を解消する手立てを取ることが極めて複雑かつ困難となり、合理的な施策の導入を事実上不可能ならしめてしまうのである。
 国会では、これまで「谷間世代」の不平等解消について十分な議論がなされてきたわけではない。そして、第71期以降の司法修習生に一定の給付金が支給されることとなった今こそ、上記「谷間世代」の置かれた状況とその不平等に目を向け、これを是正する措置を講ずる施策の導入に向けて議論を開始すべきなのである。
 よって、そのような「谷間世代」の不平等解消の措置が講じられるまでの間、彼らに対する貸与金の返還を猶予するよう求める次第である。

2018(平成30)年3月22日
神奈川県弁護士会
会長 延命 政之

 
 
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