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生活保護基準を引き下げないよう求める会長声明
会長声明・決議・意見書(2017年度)
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生活保護基準を引き下げないよう求める会長声明
2018年02月09日更新
昨年12月22日、政府は生活保護基準を引き下げ、年間160億円を削減することを含む新年度予算案を閣議決定した。
今回の基準改定では、基準額が上がる世帯もあるものの、全体では約7割の世帯が引き下げとなり、特に横浜市、川崎市をはじめとする都市部の子どものいる世帯と高齢世帯において大幅な引き下げが見込まれている。生活扶助費についてみると、都市部の夫婦子2人世帯では13.7%(月額約2.5万円)、高齢単身世帯(65歳)では8.3%(月額約0.7万円)の減額が見込まれ、あまりに影響が大きいために減額緩和措置で減額率を5%にとどめるという。
また、母子加算は月額平均2.1万円から1.7万円に、児童養育加算は子ども1人につき月額1万円又は1.5万円から一律1万円に引き下げられるほか、定額支給であった学習支援費は実費支給に切り替えられ、小学校では実費上限額も従前の半額程度まで削減される。
生活保護世帯からの大学等進学を支援するなどの制度改善も盛り込まれているが、このように生活保護基準を引き下げることで、生活保護世帯の子どもたちから大学等に進学する意欲や能力を育む機会や環境が奪い去られてしまうのではないかと懸念される。
生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化したものであるが、2004年からの老齢加算の段階的廃止、2013年からの生活扶助基準の削減(平均6.5%、最大10%)、2015年からの住宅扶助基準、冬季加算の削減などによって、これまでも引き下げられてきた。
加えて、生活保護基準は、最低賃金、各種社会保険制度の保険料や一部負担金の減免基準、就学援助などの諸制度と連動しているため、その引き下げは、生活保護を利用していない世帯の生活水準をも引き下げることとなる。
それにもかかわらず、生活保護基準のさらなる引き下げを行うと、生活保護利用世帯のみならず、日本全体の貧困化を促すことになるのではないかとの危惧を感じざるを得ない。
今回の引き下げの考え方は、国民のうち所得が最も低い10%(「第1・十分位層」)の消費水準に生活保護基準を合わせる、というものである。
しかし、日本では生活保護を利用できる人のうち実際に利用している人は2割から3割程度といわれており、第1・十分位層の中には、本来生活保護を受給可能であるにもかかわらず受給できていない人も多い。その中には生活費を極度に切り詰めざるを得ず、到底「健康で文化的な最低限度の生活」とは言えないような生活をしている人々が少なくない。生活保護基準部会でも、特に第1・十分位の単身高齢世帯の消費水準が低すぎることについては複数の委員から指摘がなされているほか、同部会報告書(2017年12月14日付)において子どもの健全育成のための費用が確保されないおそれがあること、一般低所得世帯との均衡のみで生活保護基準を捉えていると絶対的な水準を割ってしまう懸念があることに注意を促しているところである。
このように第1・十分位層の消費水準に生活保護基準を合わせる、という考え方は、同基準が憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化するものであるという点に照らし、問題があるといわざるを得ない。
既に述べたとおり、生活保護基準の引き下げは、単に現在の生活保護利用者の生活水準を引き下げるにとどまらず、現在及び未来の日本に生きるすべての人々の生活水準を引き下げる方向に働きかねないものであって、減額率を5%にとどめる減額緩和措置があっても許容されるものではない。
特に子どものいる世帯での引き下げは、生活保護世帯や就学援助を受ける子どもたちの育つ環境を直接に悪化させるものであり、貧困の再生産を助長しかねない。
よって、当会は、生活保護基準を引き下げないよう求める。
以上
2018(平成30)年2月8日
神奈川県弁護士会
会長 延命 政之
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