2017年11月17日更新
なぜ、犯罪の被害に遭うと、被害者や遺族はその意に反して実名や顔写真をさらされなければならないのか。 私たち神奈川県弁護士会は、2015(平成27)年3月26日に、犯罪被害者のプライバシー尊重を求める会長声明を発表し、これまでこの問題について考え続けてきました。
今年の10月、神奈川県座間市内の住宅で9名のご遺体が発見されるという事件が起きました。ご遺体全員の身元が判明した今月10日未明からは、新聞やテレビで被害者の名前や写真が流され続けています。 警察が報道機関に被害者氏名等を発表する際、ご遺族が顔写真の公表や実名報道をやめてほしいと申し入れていても、未だにそのような報道は行われている状況です。
報道する側にも理由があるのでしょう。犠牲者の痛みを共有するためとか、社会全体で事件について考えるために、実名であることが必要だと言う方もいます。私たちとしても、「報道の自由」や「取材の自由」の重要性を否定しているわけではありません。
しかし、そこには、犯罪被害者、遺族のプライバシーがなぜ暴力的に奪われるのか、なぜ本人や遺族の同意なしに生活状況を書き立てられ、勝手に写真を使われるのか、なぜ自宅を報道陣に囲まれて帰宅できないような生活を強いられるのかについての答えはありません。
プライバシーの権利とは、自分についての情報を適切にコントロールする権利と理解されています。「知られたくないことは知られない権利」「放っておかれる権利」ともいえます。 犯罪被害者には、遺族には、プライバシーはないのですか。報道の正義のために、社会全体の理解のために、犯罪被害者、遺族のプライバシーが損なわれることが許されるのでしょうか。 これまでも、過熱した報道によって、遺族の心や、被害者の尊厳が傷つけられてきました。 私たちは、この問題について、もう一度考えてもらいたいです。
神奈川県弁護士会は、報道機関や社会の人たちすべてに、被害者や遺族のプライバシーを尊重するよう求めます。
2017(平成29)年11月17日 神奈川県弁護士会 会長 延命 政之
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